穂積重行

穂積重行は、1921年12月11日に生を受け、2014年11月3日に92年の生涯を閉じた日本の西洋史学者です。特に近代イギリス史を専門分野とし、長年にわたり大学教育と研究の第一線で活躍しました。東京教育大学で教鞭をとった後、大東文化大学に移り、教授、文学部長、さらには学長を歴任し、同大学の名誉教授の称号を授与されています。

彼の生まれた家系は、日本の近代史において特筆されるべき数々の著名人を輩出しています。父は法学者の穂積重遠であり、その父方の祖父は「日本近代法学の父」と称される法学者の穂積陳重、祖母はその妻である歌子です。さらに、陳重の妻である歌子は、実業界の巨星として知られる渋沢栄一の長女にあたるため、重行は渋沢栄一の曾孫にあたります。父の重遠は渋沢栄一にとって初めての孫であり、外孫でした。また、母方の祖父は日露戦争などで活躍した陸軍大将の児玉源太郎であり、重行は児玉源太郎の孫でもあります。このように、重行は法学、実業、軍事といった近代日本の基盤を築いた複数の名門の血を引く、類まれな家系に生まれた人物でした。

学歴としては、旧制第一高等学校の文科甲類で学び、その後、東京帝国大学文学部西洋史学科に進学し、1944年に卒業しています。戦中から戦後にかけての激動の時代に学問を修めました。

大学卒業後、彼は研究者の道を進み、東京教育大学で講師、助教授を経て教授に昇任しました。教育者としても多くの学生を指導し、西洋史研究の発展に寄与しました。1978年からは大東文化大学に移籍し、ここでも教授として教壇に立ち続けました。1985年には文学部長に就任し、学部運営にも携わりました。さらに、1990年から1993年までの期間、同大学の学長という重責を担い、大学全体の運営と発展に力を尽くしました。1994年には長年の功績を認められ、大東文化大学の名誉教授の称号が贈られています。

彼の研究活動は、専門である近代イギリス史を中心に展開されました。しかし、その著作は専門分野に留まらず、多岐にわたっています。代表的な著書としては、世界史新書の一冊として刊行された『産業革命』があり、これは近代イギリスの経済社会の変革を論じたものです。また、自身の家系に関わる著作も多く残しており、祖父・穂積陳重の生涯や学問の出発点に焦点を当てた『明治一法学者の出発 穂積陳重をめぐって』は、近代日本の法学史や思想史の一面を垣間見せる著作として知られています。さらに、旧制高校文化の一端を示す『寮歌の時代』や、歴史の見方について考察した『歴史の盲点』といった著作もあります。

編纂活動にも積極的に取り組みました。祖母である穂積歌子が書き残した日記を編纂した『穂積歌子日記 明治一法学者の周辺 1890-1906』は、明治期の著名な法学者の家庭生活や周辺の様子を知る貴重な史料です。また、祖父・穂積陳重の著作である『忌み名の研究』の校訂を手掛け、父・穂積重遠の欧米留学中の日記を編纂した『欧米留学日記（1912〜1916年） 大正一法学者の出発』も刊行しています。これらの編纂作業を通じて、自身の家系が残した歴史的資料の公開と後世への継承に貢献しました。

私生活では、浅尾荘一郎の長女と結婚し、家庭を築いています。学長退任後は名誉教授として、後進の指導や研究活動を続けました。2010年には、自身の生涯や学問に関するオーラルヒストリーが記録されており、その言葉を通じて彼の人物像や歴史観を知る手がかりが残されています。2014年に逝去するまで、日本の歴史学界、特に西洋史分野において重要な足跡を残しました。

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