穴守稲荷神社

穴守稲荷神社：羽田空港を見守り続ける、歴史と信仰の神社

東京都大田区羽田に鎮座する穴守稲荷神社は、古くから人々の信仰を集める稲荷神社です。祭神は豊受姫命（とようけひめのみこと）で、五穀豊穣や商売繁昌といった一般的な稲荷神のご利益に加え、羽田空港に隣接する立地と歴史的背景から、航空安全や旅行安全、そして空港そのものの鎮護といった、独特のご利益でも知られています。

由緒：新田開発と奇跡の水害回避

神社の創建は、天明年間（1780年代）にさかのぼります。羽田浦の干潟を開墾した鈴木弥五右衛門が、五穀豊穣と海上安全を祈願して稲荷大神を祀ったのが始まりです。文政年間（1818-1830）頃の大暴風雨と津波で堤防に穴が開き、水害の危機に瀕した際、稲荷大神の加護により難を逃れたという逸話から、「波浪が穿った穴の害より田畑を守り給ふ稲荷大神」として「穴守稲荷大神」と呼ばれるようになりました。

その後、鈴木家の邸内神として祀られていましたが、近隣住民の信仰も集め、明治時代には正式な神社として認可を受けました。

飛躍の時代：木村荘平と京浜電鉄

明治時代後期、日本最大の牛鍋チェーン店「いろは」の経営者であった木村荘平が穴守稲荷神社の篤い崇敬者となり、その尽力によって神社は大きく発展しました。木村は多くの鳥居を奉納し、講社を組織するなど、神社の繁栄に大きく貢献しました。その功績から「穴守神主」と呼ばれたほどです。

また、京浜電気鉄道（現在の京浜急行電鉄）は、神社の参拝客輸送を目的に穴守線を敷設。これにより、穴守稲荷神社は東京近郊の行楽地として大いに賑わいました。鉱泉の発見や海水浴場の開設なども相まって、神社周辺には旅館や料理屋が軒を連ね、一大観光地を形成しました。

羽田空港との深い結びつき：空の守り神

大正時代には、神社の門前に日本飛行学校と日本飛行機製作所が設立。羽田が飛行場として発展していく礎を築きました。飛行練習生が初飛行の成功を祈願したという逸話や、その後も航空業界関係者による篤い信仰が、穴守稲荷神社を「飛行機の神」として定着させました。

第二次世界大戦後、羽田空港の拡張のため、神社は強制的に現在の場所に移転。旧鎮座地は消滅しました。しかし、羽田空港のターミナルビルには分社が祀られ、航空安全祈願祭が執り行われるなど、現在も航空業界との深い関わりが続いています。

現代の穴守稲荷神社：新たな発展

戦後の復興を経て、現在の社殿が完成。境内には、稲荷山や千本鳥居、航空稲荷など、様々な施設が整備されています。近年では、羽田空港の再開発に伴い、旧鎮座地の歴史を伝える碑が建立されるなど、新たな展開を見せています。

まとめ：歴史と信仰、そして未来

穴守稲荷神社は、新田開発から羽田空港の発展まで、長い歴史の中で人々の信仰を集め続けてきた神社です。水害回避の奇跡や、木村荘平氏、京浜電鉄による発展、そして羽田空港との深い関わりは、その歴史を彩る重要な出来事です。現在も航空関係者を中心に多くの崇敬者から信仰され、未来に向けて新たな発展を続ける穴守稲荷神社は、東京の重要な文化的資産と言えるでしょう。

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