空になる

音速ラインが2010年7月21日にリリースしたミニアルバム『空になる』は、彼らの活動において重要な節目を画する作品である。このアルバムは、バンドがメジャーデビューを果たした後に初めて発表したミニアルバムであり、新しい活動環境での第一歩を示すものとなった。さらに、本作からは発売元がよしもとアール・アンド・シーへと移行しており、音速ラインの音源がこのレーベルから届けられるようになった最初の作品としても記憶される。

キャリア全体を振り返ると、インディーズ時代にもミニアルバムを発表していた音速ラインにとって、『空になる』は通算で3枚目のミニアルバムとなる。特に、2005年にリリースされた『青い世界』以来のミニアルバムであり、その間にメジャーデビューや幾度かの変遷を経て発表された本作には、当時の彼らが抱いていた新たな決意や、音楽に対する真摯な姿勢が色濃く反映されていると言えるだろう。メジャーの舞台で、より多くのリスナーに彼らの音楽を届けるべく制作されたこのアルバムは、バンドにとって新たな挑戦の証とも呼べる。

アルバムには、音速ラインならではのキャッチーなメロディと、時に力強く、時に叙情的なサウンドが融合した全6曲が収録されている。収録曲は以下の通りである。

夏色の風
原動力
空になる
カフカ
さよならユニバース
もう一度だけ

リードトラックとして位置づけられる「夏色の風」は、爽やかな季節感を思わせる楽曲であり、そのミュージックビデオも制作された。このビデオには、お笑いタレントとして幅広い活躍を見せる椿鬼奴が出演しており、その意外な組み合わせがリリース当時には大きな話題を呼んだ。タレントの出演によって、楽曲の持つ普遍的な魅力に新たな視点が加わり、より多くの人々の注目を集めるきっかけとなったと言える。また、アルバムタイトルにも冠されている「空になる」は、内省的ながらも解放感を感じさせるタイトルであり、アルバム全体のテーマ性を示唆している。続く楽曲群も、「原動力」のような力強いナンバーから、「カフカ」「さよならユニバース」「もう一度だけ」といった内面の機微を描いたかのような楽曲まで、音速ラインの音楽性の幅広さを示すバラエティ豊かな構成となっている。

『空になる』は、単なる通過点ではなく、メジャーという新しい環境下で、彼らがどのように自らの音楽を表現していくかを示す重要な指標となった作品である。これまでのキャリアで培ってきた彼ら独自のサウンドを基盤としつつも、新たなレーベルと共に作り上げた本作は、音速ラインのセカンドフェーズの幕開けを鮮やかに告げる一枚となった。聴き終えた後に清々しさ共に、何か新しい始まりを予感させるような余韻を残す、そんなミニアルバムである。バンドの歴史を語る上で欠かせない、聴き応えのある作品と言えるだろう。

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