空を飛ぶパラソル

空を飛ぶパラソル

『空を飛ぶパラソル』は、著名な探偵小説作家・夢野久作による短編小説で、1929年に雑誌『新青年』に掲載されました。この作品は、2つの異なる物語で構成されており、新聞記者の視点で描かれる日常の中に潜む悲哀と特ダネの追求がテーマとなっています。実際、夢野久作は九州日報の記者としての経験を持ち、彼の作品には新聞記者が主人公のものが多いのもその影響でしょう。

あらすじ

空を飛ぶパラソル

物語の主人公である「私」は、福岡時報に勤める新聞記者です。ある日、特ダネを探して九大工学部に取材に出かけた際、驚くべき光景に出くわします。空色のパラソルを持った女性が、汽車に身を投げようとしているのです。彼女の危機的な状況を目撃した「私」は、一瞬立ちすくんでしまいますが、特ダネのチャンスを逃すことを恐れて彼女を見守ることに決めます。

運命の瞬間、女性は汽車に轢かれ、空色のパラソルは宙に舞い上がります。事件の後、大急ぎで現場から名刺や質の明細書を盗み取り、女性の素性を調べ上げる「私」。彼女は名家の家出娘で、医学生との関係があったことも明らかになります。しかし、新聞に掲載された内容とは裏腹に、彼女の家族はその内容を否定し、まるで彼女の存在を否定するかのように振る舞います。この謎めいた女性の真実とは何だったのか、「私」は悩みながら物語は進行します。

濡れた鯉のぼり

さらに、1年後に舞台は移ります。「私」は汽車の中から墓原に立っている鯉のぼりに目を奪われます。興味を持った「私」は、その墓を訪れた結果、10日前に亡くなった女性に関する情報を得て、彼女の家族を訪問します。しかし、そこには老婆とその息子、妻、そして子供がいますが、その息子は帰宅しておらず、家族の間には不穏な空気が漂っています。

このように、夢野久作は短編小説の中で特ダネを追い求める新聞記者の苦悩と、それに付随する人間の心理を巧みに描写しています。特に、なぜ特ダネを求めるか、自らの仕事に対しての責任感と葛藤、そして取材対象者に対する無関心を交錯させ、緊張感を持たせています。

『空を飛ぶパラソル』は、作中のキャラクターたちが直面する運命的な瞬間や、新聞記事という形で世間に伝わる真実と虚構の境界を考えさせる作品です。夢野久作は、彼自身の経験を生かし、物語の中にリアルさを織り込むことで読者に深い印象を残します。

結論

この短編は、特ダネ取得という一見刺激的なテーマだけでなく、それに伴う人間ドラマや心の葛藤を感じさせ、読者に多くの問いを投げかけます。夢野久作の作品からは、日本の文学における新聞記者の存在と役割の重要性を考察する良い機会を与えてくれます。

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