空中発射巡航ミサイル

空中発射巡航ミサイル (ALCM)

空中発射巡航ミサイル（Air Launched Cruise Missile、略称ALCM）とは、航空機に搭載された状態で空中から目標に向けて発射される巡航ミサイルの総称です。地上や水上艦艇、潜水艦から発射される巡航ミサイルとは発射方法において区別され、航空作戦における長距離精密攻撃能力の中核を担う兵器システムです。

概要

ALCMの最大の特徴は、その発射媒体が航空機であるという点にあります。これにより、ミサイルは特定の固定された場所からではなく、発射母機である航空機の運用範囲内であれば、任意の地点から柔軟に投入することが可能です。発射後のALCMは、機体内部に格納された小型のターボファンエンジンやジェットエンジンなどの推進機関を用いて自律的に飛行し、搭載された誘導システムに従って目標まで航行します。航空機によるミサイルの運搬は、攻撃のリーチを大幅に延伸させ、従来の航空爆弾や短射程ミサイルでは達成困難な遠距離目標への攻撃を可能にします。

特徴と利点

ALCMがもたらす主要な戦術的・戦略的利点は、その長い射程とスタンドオフ攻撃能力に集約されます。長大な射程を持つALCMは、発射母機が敵の対空ミサイルや戦闘機の有効な攻撃圏内に入る前にミサイルを発射することを可能にします。これにより、発射母機のリスクを最小限に抑えつつ、敵の強力な防空システムを回避または無力化することが期待できます。また、多くのALCMは、地形に沿った低高度飛行能力を有しており、これは敵のレーダーによる探知を困難にし、生存性を高める上で有効です。さらに、高度な誘導システムにより、高い命中精度で目標を攻撃できるため、軍事施設、産業インフラ、指揮統制拠点といった特定の目標に対する効果的な精密攻撃手段として用いられます。

弾頭の種類

ALCMは、その任務に応じて多様な弾頭を搭載することができます。代表的なものとして、通常弾頭型と核弾頭型が存在します。

通常弾頭型: 高性能炸薬や特殊な弾頭（例：バンカーバスターなど）を搭載し、建造物や車両、艦船などの物理的な目標を破壊するために使用されます。非核紛争における戦略目標や戦術目標への精密攻撃手段として、広く世界の軍隊で運用されています。
核弾頭型: 核分裂または核融合による爆発を引き起こす核弾頭を搭載したタイプで、広範囲に壊滅的な被害をもたらす戦略兵器です。冷戦期に開発が加速し、戦略的抑止力の三本柱（戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル）の一つである戦略爆撃機に搭載される主要な核攻撃手段として配備されました。現在も一部の核保有国によって保有されています。

このように、ALCMは搭載弾頭によって、局地的な精密攻撃から国家レベルの戦略的破壊まで、幅広い役割を果たすことができます。

誘導システム

ALCMが目標まで正確に到達するためには、信頼性の高い誘導システムが不可欠です。初期のシステムは慣性誘導に依存していましたが、現代のALCMは複数の技術を組み合わせた複合誘導システムを採用しています。これには、GPS（全地球測位システム）による精密な位置特定に加え、地形等高線照合（TERCOM: Terrain Contour Matching）やデジタル画像照合（DSMAC: Digital Scene Matching Area Correlator）といった技術が含まれます。TERCOMは、飛行経路上の地形データをミサイル内部の地形図データと照合することで位置誤差を修正するシステムです。DSMACは、目標地域の画像をミサイル内部の画像データと照合して最終的な誘導を行うシステムで、特に固定目標に対して高い命中精度を発揮します。これらの技術の組み合わせにより、電子妨害下やGPSが利用できない環境でも、高い精度での航行と目標捕捉を可能にしています。

運用と対象

ALCMは主に戦略爆撃機（例：アメリカのB-52、ロシアのTu-95など）や戦闘爆撃機（例：アメリカのF-15E、F/A-18E/Fなど）から運用されます。攻撃対象は多岐にわたり、敵国の指揮統制中枢、通信施設、発電所、橋梁、港湾設備といった重要インフラ、あるいは飛行場、軍事基地、レーダーサイトなどの軍事目標、さらには海上航行中の大型艦船などが含まれます。ALCMは発射後、事前にプログラミングされた飛行ルートをたどり、敵の防空網を回避しつつ目標へ向かいます。低空飛行や地形追随飛行といった特性は、敵のレーダー網による早期発見を防ぎ、迎撃を困難にする上で有効です。

空中発射巡航ミサイル