立川善馬 (5代目)

五代目立川善馬は、明治18年(1885年)4月19日、東京府（現在の東京都）に生まれました。本名は鳥井兼吉。落語家として名を馳せる一方、その経歴は異色のものと言えるでしょう。

当初は奇術師・天遊斎明一の門下で、奇術や曲芸を学びました。その後、明治30年代後半に初代三遊亭圓遊に入門。三遊亭遊福を名乗り、その後、三遊亭右圓遊、三遊亭遊朝と改名。1919年頃には三遊亭善馬となり、翌年には三遊亭ぜん馬としました。そして、1926年頃、現在の高座名である五代目立川善馬を襲名しました。

立川善馬の芸歴は、奇術から落語へと転身したという点で特筆すべきです。落語家としての彼の特徴は、何よりも「楽屋の稽古代」を得意とした点にあります。これは、彼の高い芸の深さと、後進の育成への熱意を象徴するエピソードでしょう。

立川善馬は、古い落語を忠実に記憶し、誰に対しても気さくで丁寧に稽古をつけました。彼の稽古を受けた弟子には、七代目立川談志、六代目柳亭燕路、五代目三遊亭圓楽といった、後に落語界を代表する名優たちが含まれています。彼らが師事した、立川善馬の指導の質の高さがうかがえます。

興味深いのは、立川善馬は寄席においては、予備的な役割に留まり、高座に上がる機会はほとんどなかったという点です。これは、彼が稽古に専念し、弟子育成を優先した証左と言えるでしょう。また、晩年には耳が遠くなったにも関わらず、日本芸術協会から落語協会に移籍するという行動に出ています。その理由や背景は定かではありませんが、晩年の彼の状況を知る上で重要な情報です。

現在、彼の音源として「ねずみ穴」が残されています。これは、彼の芸を今に伝える貴重な資料であり、貴重な文化遺産と言えます。

五代目立川善馬は、表舞台での活躍が目立つわけではありませんでしたが、多くの落語家育成に貢献した影の功労者でした。彼の存在は、落語界の歴史において、重要な位置を占めていると言えるでしょう。彼の芸風や人物像を知ることは、日本の伝統芸能である落語をより深く理解するためにも、欠かせないものなのです。

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