童夢 (漫画)

童夢（どうむ）

『童夢』は、漫画家・大友克洋による日本の漫画作品です。1980年から1981年にかけて漫画雑誌で連載され、1983年に単行本として刊行されました。大友克洋の代表作の一つであり、郊外のマンモス団地で発生する連続不審死事件を巡るモダンホラー作品として知られています。

超能力の描写や建物の破壊シーンなど、後の代表作『AKIRA』の原型とも言える要素が本作には含まれています。

概要

初出は、漫画雑誌「アクションデラックス特別増刊」第3号（双葉社）です。第5号まで3回連続で掲載された後（1980年〜1981年）、最終話が『漫画アクション増刊スーパーフィクション』第7号（1981年）に掲載されました。その後、加筆修正と描き下ろしページが加えられ、アクションコミックス（双葉社）より単行本化されました。

また、原稿の原寸のままのB4判函入りの『童夢　豪華版』が1984年に限定5000部で刊行されました。2022年には大友克洋全集の第1期・第1回配本のうちの1冊として刊行されています。

1983年には第4回日本SF大賞、1984年には第15回星雲賞コミック部門を受賞しています。

本作や『AKIRA』以降、見開きページを背景にし、人物を小さく描くなど、背景を主役にした作品が増えました。背景の作画は、アシスタントの高寺彰彦や末武康光らが担当しています。

作中に登場する団地は、埼玉県川口市の芝園団地、警察署は旧川口警察署の庁舎を参考に描かれました。

1990年代には、デヴィッド・リンチ監督による映画化の構想がありました。大友克洋は脚本に満足を示し、リンチも企画に前向きでしたが、企画が持ち込まれた米プロパガンダ・フィルムズとリンチの関係が悪化していた時期だったため、制作には至りませんでした。

制作の経緯

大友克洋は、短編漫画『Fire-ball』制作中にスタッフたちと映画『エクソシスト』の話題で盛り上がり、SFにホラーの要素を加えた漫画を描くことを決意しました。大林宣彦監督のホラー映画『HOUSE』が日本人に馴染みのない西洋館を舞台にしていたことに違和感を覚えた大友は、当時、東京の高島平団地で飛び降り自殺が相次いでいたことに着想を得て、舞台を日本の団地に設定しました。

単行本1冊を1本の映画のように描こうと考えた大友は、最初から構成をしっかりと決めて本作を描きました。その構成を守るために苦労したと言い、単行本化にあたっては加筆修正を加えるなど、大幅に手を入れています。特に最終回は全面改稿に近い形で、最終的には百ページ近い増ページとなりました。

あらすじ

「堤団地」というマンモス団地で、不審な死亡事件が連続して発生します。山川が事件の捜査を指揮しますが、なかなか進展しません。ある夜、団地を巡回していた巡査2名のうち1名が屋上から転落死し、拳銃が紛失します。常識では説明がつかないほどの短い間の出来事でした。

別の夜、山川は団地で、自分を嘲笑う誰かの声を聞きます。声を追って団地の屋上へ行くと、団地に住む老人「チョウさん」が空中浮遊をした状態で現れ、その直後、山川も犠牲者となって発見されます。

小学生の悦子の一家が団地に引っ越してきたその日、チョウさんが幼児をベランダから転落させようとしますが、悦子がそれを阻止します。悦子もまた超能力を持っており、その力を見せつけてチョウさんの「イタズラ」を牽制します。

悦子は、アル中の父親を持つ吉川ひろし、「ヨッちゃん」と呼ばれる藤山良夫たちと親しくなります。

警察では、山川の後任として岡村部長が着任しますが、あいかわらず捜査は進展しません。そんな中、団地の住人である浪人生・佐々木勉がチョウさんに操られ、悦子に襲いかかります。悦子は佐々木を能力で止めますが、ショックを受け団地の診療所に収容されます。

捜査員である高山刑事は参考意見を求めにシャーマンの野々村を訪ね、二人は団地へ向かいますが、団地の入口で野々村は震え出し、高山に「子供に気をつけなさい」と告げて逃げ帰ってしまいます。

チョウさんは転落死した巡査から奪った拳銃を吉川ひろしの父に与えます。夜、チョウさんに操られたひろしの父が悦子のいる診療所に侵入します。悦子はひろしの父を倒し、チョウさんと対決します。

チョウさんと悦子は宙に浮き、空を飛び、コンクリート片などを念動力で相手にぶつけ、団地の上空で戦い続けます。チョウさんをしかりつける悦子に、チョウさんは「今まで僕一人で遊んでたのに」と言います。

チョウさんが起こした団地のガス爆発を阻止しきれず、激情に我を忘れた悦子は、あらゆるものを破壊しながらチョウさんを追います。

悦子から逃げるばかりとなったチョウさんが建物の外に這い出し、悦子が泣きながら追い詰めますが、悦子の母が悦子を見つけ、ふたりは抱き合います。悦子が我を取り戻し、事態は収束します。

二週間後の警察の記者会見の日、ケガから復帰した高山刑事はチョウさんに面会し、以前にシャーマンの野々村が言った「子供」とは、実はチョウさんのことであったと気づき愕然とします。

チョウさんは行き先の養老院が決まるまで、いったん団地に戻ります。平穏な春の日の団地に、京都の母親の実家にいるはずの悦子が再び現れます。高山刑事はチョウさんが座るベンチの近くにいて、チョウさんの杖が破裂するのを目撃しますが、何が起きているのかは理解できません。悦子は、チョウさん達がいるのとは別の場所にいて、ただブランコをこいでいます。団地の子どもたちだけがそこで起きているなにかを感じ取り、見つめています。すべてが終わり、子どもたちは遊びの輪に戻っていきます。

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