竹内芳郎
竹内芳郎（1924年 - 2016年）は、西洋哲学を深く研究した日本の哲学者です。岐阜県に生まれ、応召を経て東京大学文学部哲学科を卒業後、國學院大學で長年にわたり教壇に立ちました（1955年専任講師、1960年助教授、1967年教授、1991年退職）。
彼は単なる学術的な議論に留まらず、現実が投げかける様々な課題に真摯に向き合い、現代社会が抱える喫緊の問題に対して積極的に発言し続けた哲学者でした。フランスの哲学者、サルトルやメルロ＝ポンティの著作を日本に紹介した人物としても知られています。中国の文化大革命に対しては、当初これを高く評価する発言を行った時期もありました。
戦後、彼の思想はニーチェやベルクソンらの生の哲学から出発し、その後、サルトルやメルロ＝ポンティの現象学を取り入れて深化しました。彼は「具体的経験」という独自の概念を核とした現象学的存在論を構築し、さらに、既存のマルクス主義を批判的に検証し、自身の現象学的存在論と融合させた独自のマルクス主義理論を提唱しました。
1970年代、全共闘運動や大学闘争の終焉という社会状況を背景に、彼は著作『言語・その解体と創造』を著しました。ここでは、欧米で影響力を持っていた静的な構造主義的言語理論に異を唱え、言語の流動性や階層性に注目することで、コミュニケーションの再構築を目指す独自の言語論を展開しました。この言語論（後に文化論へと発展）を踏まえつつ、竹内は独自のマルクス主義理論を集大成した主著『国家と文明～歴史の全体化理論序説～』を刊行しました。同書において彼は、マルクス主義を現代に蘇らせるべく、史的唯物論を徹底的に批判・再構成し、『資本論』の独自解釈を示しました。また、マルクス主義国家論を再構築することで直接民主主義の理論的根拠を明確にし、当時の反公害運動の意義にも触れながら、「文明転換と支配の廃絶」という未来への展望を描き出しました。
続いて上梓した『文化の理論のために』では、前述の言語論の成果を基に、考察範囲を記号領域全体へと拡大しました。ここでも欧米の構造主義以降の現代思想を批判的に検討しつつ、人間文化の現象を独自の記号学的手法で解明しました。特に、人間と動物の不連続性を明確にし、動物の生態という視点から人間文化の特質を照らし出す「野獣の光学」という手法を用いて、戦乱と大量虐殺に彩られた人類史の根底に潜む人間の狂気性（ホモ・デメンス）を鮮やかに浮き彫りにしています。そして彼は、人類に危機をもたらすまでに袋小路に入り込んだ現代文明の破局を回避するためには、人間の文化の根幹をなす想像力、そして人間社会を動かすカオスとコスモスの弁証法に目を向け、日常生活のあらゆる側面にわたる価値観の記号学的転換が必要であると強く訴えました。
さらに、『意味への渇き―宗教表象の記号学的考察』では、文化論の成果を応用し、記号学的手法で人類史上の様々な宗教（原始宗教、国家宗教、普遍宗教）を分析しました。特に、ゾロアスター教、仏教、キリスト教などの普遍宗教に見られる、ベルクソンが言うところの「開いた宗教」としての歴史的意義を高く評価しました。竹内によれば、普遍宗教は、社会の解体によって共同体から切り離され、超越的な存在（超越性の原理）の前に立ち尽くす「裸形の人間」が、裸形のままで平等な価値を持つという普遍的な人権思想の原初的な形を人類にもたらしたものであり、社会変革や民主化と深く結びつくものとしたのです。そして彼は、普遍宗教に共通する「超越性の原理」の視点から、日本固有の集団同調主義を特徴とする宗教表象としての天皇制、すなわち「天皇教」を厳しく批判しました。
1980年代には、これらの思索を経て上梓された『具体的経験の哲学』において、レヴィ＝ストロース、フーコー、デリダといった構造主義やポスト構造主義の思想家たちを鋭く批判し、思想が商品化されがちなポストモダンの限界を指摘しました。また、『ポスト＝モダンと天皇教の現在』では、欧米（特にフランス）の流行思想を真摯に検証することなく安易に紹介する、あるいはアカデミズムの枠内で業績作りに終始する日本の思想界・言論界の現状を、日本人特有の集団同調主義の根底にある「天皇教」と結びつけて痛烈に批判しました。そして、こうした状況を乗り越える方法として、「超越性の原理」に基づいた＜討論＞を通じた普遍的な真理の探究を提唱したのです。
1989年以降、彼は学界や言論界の第一線からは身を引き、討論を通じて民主主義を学び、思想を深める場として「討論塾」を主宰しました。晩年までこの活動を続け、民主主義、人権、マルクス主義、天皇制など、多岐にわたるテーマについて実践的な理論形成を行いました。
竹内芳郎は、単なる観念的な哲学に終わらず、現実世界と人間存在の深層に目を向け、鋭い批判精神と飽くなき探究心をもって独自の思想体系を構築し続けた哲学者であり、その思索は現代社会が直面する多くの問題に示唆を与えています。
彼は単なる学術的な議論に留まらず、現実が投げかける様々な課題に真摯に向き合い、現代社会が抱える喫緊の問題に対して積極的に発言し続けた哲学者でした。フランスの哲学者、サルトルやメルロ＝ポンティの著作を日本に紹介した人物としても知られています。中国の文化大革命に対しては、当初これを高く評価する発言を行った時期もありました。
戦後、彼の思想はニーチェやベルクソンらの生の哲学から出発し、その後、サルトルやメルロ＝ポンティの現象学を取り入れて深化しました。彼は「具体的経験」という独自の概念を核とした現象学的存在論を構築し、さらに、既存のマルクス主義を批判的に検証し、自身の現象学的存在論と融合させた独自のマルクス主義理論を提唱しました。
1970年代、全共闘運動や大学闘争の終焉という社会状況を背景に、彼は著作『言語・その解体と創造』を著しました。ここでは、欧米で影響力を持っていた静的な構造主義的言語理論に異を唱え、言語の流動性や階層性に注目することで、コミュニケーションの再構築を目指す独自の言語論を展開しました。この言語論（後に文化論へと発展）を踏まえつつ、竹内は独自のマルクス主義理論を集大成した主著『国家と文明～歴史の全体化理論序説～』を刊行しました。同書において彼は、マルクス主義を現代に蘇らせるべく、史的唯物論を徹底的に批判・再構成し、『資本論』の独自解釈を示しました。また、マルクス主義国家論を再構築することで直接民主主義の理論的根拠を明確にし、当時の反公害運動の意義にも触れながら、「文明転換と支配の廃絶」という未来への展望を描き出しました。
続いて上梓した『文化の理論のために』では、前述の言語論の成果を基に、考察範囲を記号領域全体へと拡大しました。ここでも欧米の構造主義以降の現代思想を批判的に検討しつつ、人間文化の現象を独自の記号学的手法で解明しました。特に、人間と動物の不連続性を明確にし、動物の生態という視点から人間文化の特質を照らし出す「野獣の光学」という手法を用いて、戦乱と大量虐殺に彩られた人類史の根底に潜む人間の狂気性（ホモ・デメンス）を鮮やかに浮き彫りにしています。そして彼は、人類に危機をもたらすまでに袋小路に入り込んだ現代文明の破局を回避するためには、人間の文化の根幹をなす想像力、そして人間社会を動かすカオスとコスモスの弁証法に目を向け、日常生活のあらゆる側面にわたる価値観の記号学的転換が必要であると強く訴えました。
さらに、『意味への渇き―宗教表象の記号学的考察』では、文化論の成果を応用し、記号学的手法で人類史上の様々な宗教（原始宗教、国家宗教、普遍宗教）を分析しました。特に、ゾロアスター教、仏教、キリスト教などの普遍宗教に見られる、ベルクソンが言うところの「開いた宗教」としての歴史的意義を高く評価しました。竹内によれば、普遍宗教は、社会の解体によって共同体から切り離され、超越的な存在（超越性の原理）の前に立ち尽くす「裸形の人間」が、裸形のままで平等な価値を持つという普遍的な人権思想の原初的な形を人類にもたらしたものであり、社会変革や民主化と深く結びつくものとしたのです。そして彼は、普遍宗教に共通する「超越性の原理」の視点から、日本固有の集団同調主義を特徴とする宗教表象としての天皇制、すなわち「天皇教」を厳しく批判しました。
1980年代には、これらの思索を経て上梓された『具体的経験の哲学』において、レヴィ＝ストロース、フーコー、デリダといった構造主義やポスト構造主義の思想家たちを鋭く批判し、思想が商品化されがちなポストモダンの限界を指摘しました。また、『ポスト＝モダンと天皇教の現在』では、欧米（特にフランス）の流行思想を真摯に検証することなく安易に紹介する、あるいはアカデミズムの枠内で業績作りに終始する日本の思想界・言論界の現状を、日本人特有の集団同調主義の根底にある「天皇教」と結びつけて痛烈に批判しました。そして、こうした状況を乗り越える方法として、「超越性の原理」に基づいた＜討論＞を通じた普遍的な真理の探究を提唱したのです。
1989年以降、彼は学界や言論界の第一線からは身を引き、討論を通じて民主主義を学び、思想を深める場として「討論塾」を主宰しました。晩年までこの活動を続け、民主主義、人権、マルクス主義、天皇制など、多岐にわたるテーマについて実践的な理論形成を行いました。
竹内芳郎は、単なる観念的な哲学に終わらず、現実世界と人間存在の深層に目を向け、鋭い批判精神と飽くなき探究心をもって独自の思想体系を構築し続けた哲学者であり、その思索は現代社会が直面する多くの問題に示唆を与えています。
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