笠原博幸

笠原博幸

笠原博幸（かさはら ひろゆき）は、日本の経済学者である。専門分野は計量経済学、国際貿易、マクロ経済学に跨り、現在カナダのブリティッシュコロンビア大学経済学部で教授を務めている。理論と実証の両面から、国際的な経済現象や企業行動に関する深い分析を展開していることで知られる。

経歴

笠原氏の学術的なキャリアは、一貫して北米の主要な大学での研究・教育活動を中心に築かれてきた。2002年から2004年にかけて、カナダのクィーンズ大学経済学部で助教としてその第一歩を踏み出した。その後、2004年から2009年までウェスタンオンタリオ大学経済学部に移り、引き続き助教を務めた。2009年にはブリティッシュコロンビア大学経済学部へ着任し、助教として活動した（2009年～2013年）。准教授に昇任したのは2013年であり、2019年までの6年間、教育・研究活動に貢献した。そして2019年以降は、同大学経済学部の教授として、後進の指導とともに最先端の研究を推進している。北米での20年以上にわたる継続的なキャリアは、国際的な学術界における同氏の地位を確立していることを示している。

研究分野と主な業績

笠原氏の研究は、多岐にわたる経済問題を厳密な計量経済学的手法を用いて分析することに特徴がある。特に、企業の国際貿易における行動、生産性、投資判断などが主要なテーマの一つである。また、統計的な推定や識別に関する理論計量経済学の研究も精力的に行っており、特に確率的切替モデルや有限混合モデルなどの複雑なモデルに関する理論的貢献が大きい。これらの研究は、Katsumi Shimotsu氏をはじめとする複数の研究者との共同研究を活発に行っている。

同氏の代表的な論文は、経済学および統計学のトップジャーナルに多数掲載されている。例えば、以下のような論文が挙げられる。

Katsumi Shimotsu氏との共著による"Sequential Estimation of Structural Models with a Fixed Point Constraint"は、2012年に権威ある学術誌『Econometrica』に掲載された。この論文は、構造モデルの推定における固定点制約を伴う逐次推定法に関する理論的貢献を行った。
同じくKatsumi Shimotsu氏との共著である"Nonparametric Identification of Finite Mixture Models of Dynamic Discrete Choices"も2009年に『Econometrica』に掲載されている。これは、動学的な離散選択モデルにおける有限混合モデルのノンパラメトリック識別に関する重要な研究である。
Beverly Lapham氏との共著論文"Productivity and the Decision to Import and Export: Theory and Evidence"（『Journal of International Economics』, 2013年）は、企業の生産性が輸出入の意思決定にどのように影響するかを理論と実証の両面から分析したものであり、この論文は同誌において特に高い引用数を記録するなど、国際貿易分野で大きな影響力を持った。2008年にはDistinguished CESifo Affiliate Award in Global Economyも受賞している。
Katsumi Shimotsu氏との共著論文"Asymptotic Properties of the Maximum Likelihood Estimator in Regime Switching Econometric Models"（『Journal of Econometrics』, 2019年）や、"Testing the Number of Components in Normal Mixture Regression Models"（『Journal of the American Statistical Association』, 2015年）など、計量経済学や統計学の分野における理論的な貢献も多い。
国際貿易に関連する論文としては、Heiwai Tang氏との共著"Excessive Entry and Exit in Export Markets"（『Journal of the Japanese and International Economies』, 2019年）や、Joel Rodrigue氏、Yawen Liang氏との共著でインドネシアのプラントレベルデータを用いた"Does Importing Intermediates Increase the Demand for Skilled Workers?"（『Journal of International Economics』, 2016年）などがある。
日本の経済政策に関連する研究もあり、Katsumi Shimotsu氏、Michio Suzuki氏との共著論文"Does an R&D Tax Credit Affect R&D Expenditure? The Japanese R&D Tax Credit Reform in 2003"（『Journal of the Japanese and International Economies』, 2014年）では、日本の研究開発税制改革の効果を分析している。

これらの論文群は、笠原氏が計量経済学理論の発展に貢献するとともに、その手法を国際貿易や企業行動などの実証研究に応用し、多岐にわたる重要な知見を学術界にもたらしていることを示している。

受賞

笠原氏の研究活動は、国内外で高く評価されており、以下のような賞を受賞している。

2014年: 日本統計学会研究業績賞
2017年: 中原賞

日本統計学会研究業績賞は、統計学の分野における優れた研究業績に対して贈られる賞であり、笠原氏の計量経済学における貢献が評価されたものである。また、中原賞は、日本の優れた若手・中堅経済学者に贈られる権威ある賞であり、同氏が日本の経済学界においても重要な位置を占めていることを示唆している。

まとめ

笠原博幸氏は、計量経済学を基盤としつつ、国際貿易やマクロ経済学といった幅広い分野で活躍する第一線の経済学者である。理論と実証の融合、そして厳密な分析手法を用いたその研究は、国際的な学術誌で高く評価され、複数の権威ある賞を受賞している。カナダのブリティッシュコロンビア大学を拠点に、世界経済が直面する複雑な課題の解明に貢献し続けており、今後のさらなる活躍が期待されている。

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