第一次バロン戦争

第一次バロン戦争：イングランド王位を巡る内戦

第一次バロン戦争（1215年 - 1217年）は、イングランド王ジョンに対する有力諸侯の反乱によって引き起こされた内戦です。この戦争は、ジョン王がマグナ・カルタ（大憲章）の承認を拒否したことに端を発し、フランス王太子ルイの介入によって複雑化しました。

背景：マグナ・カルタと諸侯の反発

ジョン王は、その独裁的な支配と指導力不足により、有力諸侯からの強い不満を買っていました。1215年6月、諸侯はジョン王に対し、「諸侯の要求条項」への署名を強要し、これがマグナ・カルタの原型となりました。マグナ・カルタは、王権を制限し、法に基づく統治を求める重要な文書でしたが、ジョン王はこれを遵守する意思がありませんでした。特に、第61条の「保証条項」は、25名の諸侯が王に実力で対抗できるというもので、王権を大きく制限するものでした。ジョン王がマグナ・カルタを無視したことで、諸侯との対立は深まり、武力衝突へと発展しました。

戦争の勃発：フランス王太子ルイの参戦

劣勢に立たされた反乱諸侯は、フランスのフィリップ2世の息子である王太子ルイに支援を求めました。当時のイングランドとフランスは、必ずしも敵対関係ではなく、ルイの参戦は、イングランド王位を巡る争いへと発展しました。1215年11月、ルイはまず騎士団を派遣し、1216年5月には自らイングランドに上陸しました。ルイはロンドンを占拠し、反乱諸侯や市民から歓迎を受けました。多くの貴族もルイに忠誠を誓い、ルイはイングランド王位を宣言しました。

戦争の経過：各地での攻防戦

第一次バロン戦争では、各地で激しい攻防戦が繰り広げられました。ドーバー城の攻防戦は、特に重要な戦いでした。ルイはドーバー城を攻略しようとしましたが、城主ヒューバード・ド・バーの巧みな防御により、約3ヶ月間の包囲戦の末、撤退を余儀なくされました。一方、ウィンザー城とロチェスター城でも包囲戦が行われました。ロチェスター城では、ジョン王が豚の脂で城を燃やすなど、激しい攻防戦が展開されました。しかし、ジョン王の死により、戦争の状況は大きく変化しました。

ジョン王の死とヘンリー3世の即位

1216年10月、ジョン王が死去すると、戦争の目的は失われました。ルイは、ジョン王の息子である9歳のヘンリーを警戒し、諸侯の一部はヘンリーを支持するようになりました。1216年10月、ヘンリーはグロスター大聖堂で戴冠し、ヘンリー3世として即位しました。ヘンリーの摂政であるウィリアム・マーシャルは、マグナ・カルタを再発行し、諸侯の支持を取り付けることに成功しました。また、教皇もルイを破門し、ヘンリーを支持しました。

ルイの敗北と和平

ウィリアム・マーシャルは、ルイの陣営から次々と諸侯を寝返らせ、ルイを追い詰めていきました。1217年5月、リンカーン城の戦いでルイ軍は決定的な敗北を喫し、ルイはドーバーでの包囲戦でも敗退しました。これらの敗北により、ルイは和平交渉に応じざるを得なくなり、1217年9月、ランベス条約を締結し、イングランド王位の請求を取り下げ、フランスへ帰国しました。

第一次バロン戦争の意義

第一次バロン戦争は、マグナ・カルタを巡る対立が発端となり、イングランド王位を巡る争いへと発展した内戦でした。この戦争は、王権を制限し、法に基づく統治を求めるマグナ・カルタの重要性を再確認させました。また、フランス王太子ルイの介入は、イングランドとフランスの関係に新たな一面を加えるものでした。

ルイ8世の王位について

ルイは、実際に戴冠式を行ったわけではありませんが、イングランドの大部分を占拠し、諸侯から王として承認されていました。このため、ルイをイングランドの君主としてみなすことも可能であり、歴史上の議論の対象となっています。

脚注

Salter, Mike (2000). The Castles of Kent. Folly Publications, Malvern.

関連項目

アイアンクラッド

外部リンク

Photos and article
Goodall, John, "Dover Castle and the Great Siege of 1216", Chateau Gaillard v.19 (2000) (the online version lacks the diagrams of the print version)

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