第一質料

第一質料：アリストテレス自然哲学における根源的概念

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、自然哲学において「質料」と「形相」という二つの概念を用いて、世界を説明しました。その中で、「第一質料」は、物質の根源を問う上で極めて重要な役割を担っています。

アリストテレスの哲学では、あらゆる存在物は「質料」と「形相」の結合によって成り立っています。「形相」とは、あるものの本質や性質、機能といったものを指します。例えば、木像であれば「木像であること」、人間であれば「人間であること」といった本質です。一方、「質料」とは、形相が宿る土台となる物質的な要素を指します。木像であれば木、人間であれば肉体といった具体的な物質です。

では、「第一質料」とは何でしょうか？アリストテレスは、世界を構成する物質の根源を四大元素（土、水、火、空気）と捉えていました。しかし、これらの四大元素自身も、更に根源となる何かから成り立っているはずです。この「何か」、つまり四大元素を構成する根源的な実体が「第一質料」です。それは、具体的な形や性質を持たない、潜在的な可能性としての物質です。

第一質料は、それ自体では何も具体的なものではありません。土、水、火、空気といった具体的な形相が加わることで、初めてこれらの元素として存在します。いわば、第一質料は、形相が働くための受動的な基盤と言えるでしょう。陶芸家が粘土（質料）に形を創り出す（形相）ように、第一質料は形相によって様々な存在物へと変容していきます。

アリストテレスの第一質料概念は、後世の哲学にも大きな影響を与えました。特に中世スコラ学では、神学的な議論にも取り入れられ、様々な解釈がなされました。例えば、第一質料は神の創造の材料であるとか、個物に個別性を与える原理であるといった議論がありました。

第一質料は、現代科学の視点からは捉えにくい概念かもしれません。しかし、アリストテレスが物質の根源を問い、その本質を理解しようとした試みは、哲学史において重要な意義を持ちます。第一質料は、物質の究極的根源を探求する、アリストテレス哲学の深遠さを示す重要な概念なのです。

参考文献

牛田徳子 「トマスにおける個別化原理としての質料概念と形相唯一説の問題 (PDF) 」、『中世思想研究』 中世哲学会、1975年10月15日、第17号、28-45頁。
高橋久一郎 「アリストテレスの「第一質料」論」 『哲学』 日本哲学会、1987巻 37号 1987年 p.118-128, doi:10.11439/philosophy1952.1987.118。

関連資料

* 第一質料（だいいちしつりょう）とは - ブリタニカ国際大百科事典小項目事典（コトバンク）

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