第11回都市対抗野球大会

1937年（昭和12年）8月1日から8月9日にかけて、東京の明治神宮野球場では、野球の灯が激動の時代に揺れながらも、第11回都市対抗野球大会が開催されました。前年の記念大会を終え、例年通りの16チームによるトーナメント形式が予定されていましたが、この年は国際情勢の緊迫化が影を落とします。特に7月に発生した盧溝橋事件の影響は、遠く離れた日本の野球界にも及びました。

中国大陸からの参加予定であった大連市・満洲倶楽部と、京城府（現在のソウル）から出場を決めていた全京城の2チームが、情勢不安を理由に本大会への不参加を表明したのです。これにより、大会は当初の予定を変更せざるを得なくなり、14チームによって争われることとなりました。参加チームが減少したことは残念でしたが、選手たちは困難な状況下でも最高のパフォーマンスを発揮すべく集いました。

長年にわたり大会を盛り上げてきたチームの中には、変化が見られました。第1回大会から連続出場を続けていた名古屋鉄道局は、この年、地元愛知のライバルであるクラブチーム、全名古屋に予選で敗れ、ついにその連続出場記録が途絶えました。これは、各地で新しい勢力が台頭しつつあることを示す出来事でした。一方で、東京倶楽部と全大阪という古豪は、それぞれの地区予選を危なげなく突破し、第1回大会からの連続出場を11回に伸ばし、その健在ぶりを示しました。

この第11回大会は、全体的にフレッシュな顔ぶれが目立ったことも特徴の一つです。参加した14チームのうち、実に5チームが都市対抗野球初出場という、これまでにないほど新しい風が吹き込む大会となりました。新たな地方勢力やクラブチームが全国の舞台に挑む姿は、観客に新鮮な驚きと感動を与えました。

熱戦が繰り広げられたトーナメントを勝ち上がり、決勝に駒を進めたのは、九州を代表する強豪へと成長した八幡市（現在の北九州市の一部）の八幡製鉄と、連続出場を続ける古豪・全大阪でした。八幡製鉄にとって、この大会は並々ならぬ思い入れのあるものでした。前年の第10回大会では、同じ九州のライバルである門司鉄道局が、企業チームとして初めて都市対抗野球の頂点に立ち、黒獅子旗を九州にもたらしていました。その快挙を目の当たりにし、次は自分たちがという強い決意を胸に秘めていたのです。八幡製鉄は、その九州予選で門司鉄道局を激戦の末に下し、本大会への切符を手にしました。

本大会でも、八幡製鉄は粘り強い戦いを続け、多くのきわどい試合をものにしながら決勝まで勝ち上がりました。そして迎えた8月9日の決勝戦。相手は経験豊富な全大阪です。試合は緊迫した投手戦となりましたが、八幡製鉄が粘り強くリードを奪い、これを守り切りました。最終スコアは八幡製鉄3対1で八幡製鉄が勝利。

この勝利により、八幡製鉄は都市対抗野球大会において、チーム史上初の優勝という栄冠を手にしました。九州勢としては門司鉄道局に続く優勝であり、新たな時代の到来を予感させる出来事でした。優勝投手には、八幡製鉄の快進撃を支え続けた角地孫之助投手が輝き、この大会の最優秀選手に贈られる橋戸賞も受賞しました。角地投手の力投は、チームを初の栄光へと導く原動力となりました。

国際情勢の波に翻弄され、参加チーム数に変動があった第11回大会でしたが、その中でも新しいチームが台頭し、歴史あるチームとの間で繰り広げられたドラマは、都市対抗野球の持つ魅力を改めて示すものとなりました。八幡製鉄の初優勝は、戦時色が濃くなりつつある時代において、多くの人々に希望と感動を与えた出来事として、その歴史に刻まれています。

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