第15回都市対抗野球大会

1941年夏、日本の野球界では、第15回目となる都市対抗野球大会が8月に開催される予定で準備が進められていました。この大会は、全国から集まった強豪アマチュア野球チームが一堂に会し、都市の誇りをかけて戦う、当時既に大きな注目を集める一大イベントとなっていました。

しかし、当時、日中戦争は長期化し、戦況はますます厳しさを加えていました。こうした時局の影響は社会全体に及び、国民生活は圧迫され、スポーツ、特に多数の観客を集める野球を取り巻く環境も、日々悪化の一途をたどっていました。資材の不足や移動の制限など、野球活動自体が困難になりつつある時代でした。

そのような厳しい状況下にあっても、大会事務局はなんとか開催を実現しようと準備を進め、全国各地で予選が行われました。そして、大会開幕を約3週間後に控えた7月20日には、群馬県の太田市で行われた関東地区予選をもって、本大会に出場する全国から選抜された17チームが全て決定したのです。選手たちは本大会での活躍を胸に、最終調整に入るところでした。

しかし、全国の代表チームが出揃ったのも束の間、その直後、社会情勢のさらなる緊迫化を背景に、大規模な集会を厳しく制限する命令が政府によって発令されました。数万人の観衆が球場に詰めかけ、熱狂的な声援を送る都市対抗野球大会は、まさにこの集会禁止令の対象となりうるイベントでした。これにより、安全な開催は不可能と判断され、大会の中止が決定されたのです。

これにより、大会は開幕を目前に控えた土壇場で、突如として中止を余儀なくされました。選手たちの努力、関係者の準備、そしてファンたちの期待は、実を結ぶことなく断たれてしまったのです。

公式には大会が開催されなかったにもかかわらず、都市対抗野球大会としての回次は「第15回」として記録に残されました。しかし、この中止は後の大会記録に複雑な影響を及ぼしました。例えば、前年の第14回大会と翌年の第16回大会に連続して出場したチームであっても、記録上は間の第15回大会に出場していないことになり、公式な「連続出場」とはみなされませんでした。また、予選を突破して本大会への出場権を獲得したチームも、実際に大会が開催されなかったため、公式な都市対抗野球大会への出場回数としては一切カウントされないという扱いになりました。

この「幻の大会」の最も象徴的なエピソードとして、全古河（東京都）、呉建築（呉市）、上海華中鉄道（上海）の3チームが挙げられます。これらのチームは、まさにこの第15回大会で都市対抗野球の予選を初めて突破し、本大会出場という栄誉を掴みかけていました。しかし、大会が中止となった後、残念ながら再び厳しい予選を突破して本大会への切符を手にする機会は訪れませんでした。これにより、彼らは予選を通過しながらも、一度も都市対抗野球の華やかな舞台に立つことができなかった「幻の」出場チームとして、歴史にその名を残すことになったのです。第15回大会は、戦時下の社会情勢がスポーツイベントに与えた影響を物語る、悲運の大会として記憶されています。

もう一度検索