第28回ニューヨーク映画批評家協会賞

ニューヨーク映画批評家協会賞は、全米各地にある映画批評家協会が主催する賞の中でも、特に長い歴史と権威を持つものの一つとして数えられています。例年、ニューヨークを拠点に活動する主要な新聞、雑誌、通信社などの映画批評家たちが投票に参加し、その年の優れた映画作品、監督、俳優、脚本家などを部門別に選出して表彰します。選考結果は、アカデミー賞を始めとする他の主要な映画賞の行方を占う上でも重要な指標とされ、映画業界内外から高い注目を集めるイベントです。

この権威ある賞の第28回授賞式は、本来であれば1962年に公開された国内外の優れた映画作品を対象として、例年通り年末の特定の時期に開催されるべく準備が進められていました。1962年は数々の記憶に残る映画が公開された年であり、ニューヨークの批評家たちがどのような作品に栄誉を与えるのか、多くの映画関係者やファンが期待を寄せていました。

しかしながら、この第28回授賞式の開催を不可能にする、予測不能な事態が発生します。それは、1962年12月8日に始まった、ニューヨーク市の主要な新聞社に対する大規模な労働争議、すなわち新聞ストライキでした。このストライキには、タイムズ紙、ヘラルド・トリビューン紙、デイリー・ニューズ紙など、ニューヨークの基幹的な新聞メディアが複数参加し、市の情報流通に深刻な影響を与えました。

ニューヨーク映画批評家協会賞の選考プロセスは、主に加盟批評家たちが所属する新聞などの媒体を通じて行われます。ストライキにより、批評家たちは日々の映画レビューを掲載する場を失っただけでなく、協会内での議論や投票結果の集計、そして最も重要である選考結果を公に発表するための主要な媒体（新聞）が存在しないという前例のない状況に直面しました。批評活動そのものが停滞し、賞の運営体制が機能不全に陥ったと考えられます。

この新聞ストライキは、短期間で収束する見込みのない、長期にわたるものとなりました。労使間の交渉は難航し、ストライキは開始から実に114日間という長きにわたり続きました。この期間、ニューヨーク市民は主要な新聞から情報を得ることが困難になり、文化や社会活動にも広範な影響が及びましたが、特に新聞に依存する映画批評家協会の活動にとっては、決定的な打撃となりました。

批評家たちが通常の業務に戻り、協会としての活動を再開できる見通しが立たない状況が長期間続いたこと、そして賞の発表と報道を行うための基盤が失われたことから、ニューヨーク映画批評家協会は熟慮の末、第28回授賞式の開催そのものを中止するという苦渋の決断を下しました。これにより、1962年の優れた映画作品群は、この権威ある賞による公式な評価の機会を永久に失うこととなりました。

ニューヨーク映画批評家協会賞の80年以上の歴史において、授賞式が完全に中止された事例は極めて稀です。例年途切れることなく開催されてきた伝統を考えると、この第28回の中止は、当時のアメリカの映画界、そしてジャーナリズム界にとって、非常に異例かつ衝撃的な出来事として受け止められました。社会情勢が文化イベントにいかに大きな影響を与え得るかを示す一例と言えるでしょう。

このように、第28回ニューヨーク映画批評家協会賞は、1962年に制作された映画を讃えることなく、ニューヨークを襲った大規模な新聞ストライキという不可抗力によって開催が断念された、「幻」の授賞式として、映画史及びジャーナリズム史の一コマに刻まれています。この出来事は、批評活動や文化イベントがメディア機能と深く結びついていることを改めて示唆しています。

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