第4回全国中等学校優勝野球大会

1918年の夏、兵庫県の鳴尾球場を舞台に盛大な開催が予定されていた第4回全国中等学校優勝野球大会は、当時の社会状況の急激な変化により、実際に試合が行われることなく中止となった「幻の大会」として日本の高校野球史に刻まれています。

大会は8月14日に開幕する予定で、その準備は着々と進められていました。大会開催に先立つ8月9日には、全国各地方で行われた予選を勝ち抜いた14校全ての代表校が決定。選ばれた選手たちは、大会の舞台となる鳴尾の地に続々と集結していました。開幕前日の8月13日には、大会の組み合わせを決める抽選会も無事に執り行われ、選手たちの間には本番を前にした緊張感と期待感が漂っていました。この第4回大会の代表校には、前年の優勝校である愛知一中や準優勝校の関西学院中のほか、大会黎明期を彩った第1回大会優勝校の京都二中、第2回大会優勝校の慶応普通部といった名門校も名を連ねており、質の高い戦いが繰り広げられることが予想されていました。

また、この大会からルール面での変更点がありました。前々回の第2回大会から採用されていた敗者復活制が、前年大会で一度敗れた愛知一中が敗者復活から勝ち上がって優勝した事例が賛否両論を巻き起こしたことを受け、この第4回大会をもって廃止されることがすでに決定していました。

しかし、大会開幕を目前に控えたこの時期、日本の社会全体を揺るがす「米騒動」が急速に拡大していました。同年7月下旬に富山県魚津町で発生した米の価格高騰に対する抗議運動は、大会が始まる直前の8月下旬には、開催地の近隣である大阪市や神戸市といった大都市圏にまで波及し、その後、騒動は全国各地へと燎原の火のように広がっていきました。各地で発生する暴動や混乱により、社会全体が不安定な状況に陥る中、主催者である朝日新聞社は、選手や観客の安全を確保しながら大会を予定通り運営することが不可能であると判断せざるを得なくなりました。こうした状況を受け、苦渋の決断として、全国大会の中止が発表されることとなったのです。

大会中止という異例の事態を受けて、主催者である朝日新聞社は、代表校関係者に対する誠実な対応をとりました。大会のために鳴尾に滞在していた8月13日から16日までの4日間にわたる参加費用の一切は、朝日新聞社が負担しました。また、前年優勝校として優勝旗を保持していた愛知一中は、そのまま優勝旗を持ち帰ることとなりました。この第4回大会は、実際に試合が行われることはありませんでしたが、代表に選ばれていた14校にとっては、その出場が正式な記録としてカウントされています。

大会中止決定後には、代替措置として大阪府の北野中学校の校庭を借りて非公開で大会を開催するという案も検討されたと言われていますが、これも安全面など様々な問題から実現には至りませんでした。

第4回全国中等学校優勝野球大会は、日本の高校野球史において非常に特別な位置を占めています。これまでに全国大会が中止された例はいくつかありますが、そのほとんどが、1941年の第27回大会や2020年の第102回大会のように、地方大会も含めて全面的に中止となったケースです。これに対し、第4回大会は、全ての地方大会が滞りなく開催されて全国大会の代表校が決定し、選手たちも開催地に集結して組み合わせ抽選まで行った段階で、全国大会のみが中止となった唯一の事例です。この事実は、当時の米騒動がいかに予測不能かつ急激な社会不安を引き起こし、大会中止という決断がいかに直前であったかを如実に物語っています。

以下に、代表校と、抽選会で決定していた1回戦の組み合わせを示します。

代表校（14校）：
愛知一中（愛知県）
関西学院中（兵庫県）
京都二中（京都府）
慶応普通部（東京都）
広島商（広島県）
中学明善（福岡県）
和歌山中（和歌山県）
長野師範（長野県）
今治中（愛媛県）
鳥取中（鳥取県）
長岡中（新潟県）
一関中（岩手県）
市岡中（大阪府）
竜ヶ崎中（茨城県）

組み合わせ（1回戦）：
広島商 vs 慶応普通部
中学明善 vs 和歌山中
長野師範 vs 関西学院中
今治中 vs 京都二中
愛知一中 vs 鳥取中
長岡中 vs 一関中
* 市岡中 vs 竜ヶ崎中

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