第43回都市対抗野球大会

第43回都市対抗野球大会は、1972年（昭和47年）7月28日から8月6日までの期間、東京の後楽園球場を舞台に開催されました。この年の大会には、全国の予選を勝ち抜いた32チームが出場し、真夏の都市対抗野球の頂点を目指しました。特に注目されたのは、沖縄県の本土復帰を記念し、那覇市代表としてオール那覇が招待チームとして参加したことです。また、鈴鹿市代表の本田技研鈴鹿が初めて本大会に駒を進め、新たな顔ぶれが加わりました。大会前は、多くの有力チームや名門チームが出場し、例年通りの熱戦が期待されていました。

しかし、大会は開幕直後から予想外の波乱含みの展開となりました。前評判の高かった実力派チームが、次々と初戦で苦杯を喫し、姿を消していったのです。前回大会で優勝を飾った姫路市・新日本製鐵広畑をはじめ、強豪として知られる大阪市・電電近畿、そして古豪・横浜市・日本石油といった名だたる有力チームが、まさかの早期敗退を余儀なくされました。これにより、野球界における最高の栄誉とされる黒獅子旗の行方は、全く見通せない混沌とした状況となりました。

この第43回大会を特徴づけたのは、各チームの投手力の高さでした。全31試合のうち、実に18試合が相手チームを無失点に抑え込むシャットアウトゲームという、圧倒的な投手優位の大会となったのです。各チームの投手陣が高いレベルの投球を見せ、ロースコアでの息詰まるような試合が数多く繰り広げられました。まさに「投手戦」という言葉が相応しい大会でした。

こうした厳しいトーナメントを勝ち抜き、決勝の舞台に駒を進めたのは、浜松市代表の日本楽器と、川崎市代表の三菱自動車川崎でした。日本楽器は、初戦で前年王者の新日鐵広畑を撃破するという大きな番狂わせを演じると、その後も打線が爆発した大量得点の試合、終盤まで勝負の分からない接戦、そして投手戦を制した完封勝利と、チームとして多様な戦い方で勢いに乗り、初の栄冠へあと一歩と迫りました。

対する三菱自動車川崎は、堅い守りと圧倒的な投手力を最大の武器に勝ち上がりました。特に、2回戦から準決勝までの3試合連続で相手打線を無得点に抑え込むという驚異的な投球を見せました。強力な投手陣がチーム全体を力強く牽引し、まさに鉄壁の守備で初の優勝を目指して決勝へと歩みを進めました。

初めて都市対抗の頂点を狙う両チームが激突した決勝戦は、1972年8月6日に行われました。この試合で主役となったのは、日本楽器のエース・新美敏投手でした。新美投手は、三菱自動車川崎打線をわずか4安打に抑え込む圧巻のピッチングを披露し、見事に完封勝利を飾りました。この歴史的な一戦の結果、浜松市代表の日本楽器が、都市対抗野球大会において創部以来初めて優勝を果たし、栄光の黒獅子旗が初めて浜松の地にもたらされました。惜しくも敗れた三菱自動車川崎も健闘しましたが、新美投手の前に打線が沈黙し、優勝には手が届きませんでした。

大会の終盤には、個人やチームの活躍を称える様々な表彰が行われました。

橋戸賞（最優秀選手）：新美敏投手（日本楽器）
久慈賞（敢闘賞）：池田善吾投手（三菱自動車川崎）
小野賞（打撃賞相当）：細川昌俊中堅手（西濃運輸）

また、長年にわたり都市対抗野球大会に出場し、大会の発展に貢献した選手たちが表彰されました。

10年連続出場選手：
三田晃投手（大昭和製紙北海道）
岡庭巌捕手（日本軽金属（河合楽器））
小弓場保投手（日本生命）
後藤晃吾投手（新日本製鐵八幡）
瀬藤宜彦外野手（新日本製鐵八幡）

スタンドから選手たちを熱烈に後押しした応援団にも賞が贈られました。

応援団コンクール：
最優秀賞：三菱自動車川崎
優秀賞：本田技研
敢闘賞：日本楽器、日立製作所
特別賞：該当なし
* 努力賞：住友金属

この第43回都市対抗野球大会は、強豪の早期敗退という波乱、投手陣の活躍による完封試合の多さ、そして日本楽器の初優勝という歴史的快挙など、多くのドラマを生んだ大会として、記憶に残る一ページとなりました。

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