第6回全国中等学校優勝野球大会

第6回全国中等学校優勝野球大会

大正9年（1920年）の夏、高校野球の源流である全国中等学校優勝野球大会は、その第6回大会を8月14日から19日までの6日間、兵庫県西宮市の鳴尾球場にて開催しました。この年の大会には、全国各地の予選を勝ち抜いた15校が集結。前年の参加校から一つ増え、規模が拡大しました。

大会概要と異例の事態

地方大会の予選では、大きな変更がありました。これまで東北地区の一部として扱われていた北海道が独立し、新たに北海道大会が設置されたのです。これにより、本大会への出場枠が一つ増え、より多くの地域の代表校が参加できるようになりました。

しかし、この第6回大会は、開幕前から異例の事態に直面していました。前年度の優勝校であった神戸一中が、まさかの兵庫大会初戦敗退という結果に終わったため、本大会への出場権を得られなかったのです。これは大会史上初めての出来事であり、開会式において前年度優勝校から優勝旗が返還されるという、それまでの慣例が行われませんでした。この経験は、後に優勝校が不出場となった場合でも、前年度の選手が代表として開会式に参加し、優勝旗を返還するという新たな運用が定められるきっかけとなりました。

浮き彫りになった課題：健康と資格

大会期間中、選手の健康管理と選手資格の問題が大きく取り上げられました。優勝を果たした関西学院中の沢昇投手は、肋膜炎という重い病が完治しないままマウンドに上がり続けました。特に2回戦以降は、高熱に苦しみながらの力投だったといわれています。

また、鳥取中の坂本選手や鴻城中の藤田選手も、脚気を患いながら出場。症状が悪化し、試合途中で交代せざるを得ない場面も見られました。こうした痛ましい状況は、当時の大会における選手の健康管理体制の不備を浮き彫りにしました。この経験を踏まえ、大会側は選手の安全と健康を守るため、2年後の第8回大会から、参加選手全員に医師の健康証明書提出を義務付ける制度を導入しました。

さらに、選手資格についても問題が提起されました。当時、法政大学の野球部でプレーし、大学野球の経験を持つ小方二十世選手が、豊国中の選手として出場していたのです。これは、当時の大会規約に年齢制限がなく、学校長が在籍する生徒を代表選手と認めれば、経歴に関わらず出場が認められていたため発生しました。しかし、中等学校の大会に大学経験者が出場することの妥当性には疑問の声が上がりました。この事態を受け、運営側は規約の改正に乗り出し、2年後には選手の年齢を18歳未満とする年齢制限が設けられ、大学野球経験者の出場は禁止されることとなりました。

大会の熱戦

大会では、15校による熱戦が繰り広げられました。特に準決勝では、慶応普通部と松山商の試合が延長16回に及ぶ壮絶な投手戦・打撃戦となり、球場は大きな興奮に包まれました。そして決勝戦では、健康問題を抱えながらも勝ち上がってきた関西学院中と、この激戦を制した慶応普通部が対戦。見事、関西学院中が優勝旗を手にしました。優勝投手となった沢昇の投球は、病を押しての文字通り魂の投球であり、多くの人々に感動を与えました。

この第6回大会は、単なる野球の競技会としてだけでなく、大会の運営方法、選手の健康管理、そして選手資格といった、その後の全国中等学校優勝野球大会（そして現在の全国高校野球選手権大会）のあり方を根本から見直す重要な契機となった、歴史的な大会として記憶されています。

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