第9回都市対抗野球大会

1935年（昭和10年）の夏、8月3日から12日までの会期で、東京の明治神宮野球場を舞台に、第9回都市対抗野球大会が開催されました。この大会は、都市対抗野球の歴史において、いくつかの重要な変革点となった記念すべき大会です。

大会名称の変更と意義

この第9回大会を迎えるにあたり、大会名称に大きな変更が加えられました。それまでの大会名に冠されていた「全日本」の文字がこの回から外され、現在まで続く「都市対抗野球大会」という呼称が初めて公式に用いられることになったのです。この変更の背景には、当時の国際情勢、特に満洲国の成立がありました。従来の「全日本」という表現が、満洲国からの参加チームとの関係において整合性を保つのが難しくなったためと考えられています。大会名から「全日本」を外し、「都市」を代表するチームによる対抗戦としての性格をより明確にすることで、多様な地域からの参加を包含し、大会の継続性を確保する判断がなされたのです。この名称変更は、都市対抗野球が日本の枠を超えた広がりを持つ可能性を示唆する一方、国内における各都市の代表チームによる選手権としての性格を確立する一歩ともなりました。

出場チーム決定方式の全面改正

第9回大会のもう一つの大きな特徴は、出場チームの決定方式が全面的に見直された点です。第2回大会以降、本大会への出場には地区予選が導入されていましたが、この大会からは出場する全16チームすべてが、厳しい地区予選を勝ち抜かなければ本大会の土俵に上がれないという、現在の制度につながる方式が確立されました。これにより、本大会に出場するチームは、それぞれの地域における予選リーグを勝ち抜いてきた真の実力を持つ代表チームであるという権威がより一層高まりました。この大会における地区割りは、広範な範囲をカバーしており、北海道・樺太、東北、甲信越、関東、東京市、名古屋市、大阪市、神戸市、近畿、中国、四国、九州、台湾、朝鮮、大連市、満洲といった多岐にわたる地域から代表チームを選出する形式が取られました。ただし、この大会では四国からの代表チームは出場せず、その代わりに当時の有力地域であった関東から2チームが出場するという調整が行われています。

高まる熱狂と社会現象

当時の都市対抗野球に対する世間の注目度と熱狂ぶりは、この大会でも明らかでした。準決勝が行われた8月9日には、6名の皇族方が貴賓席で試合を観戦されるという一幕もあり、野球が社会的に認知され、重要なスポーツイベントとして位置づけられていたことを物語っています。球場周辺では、入場券を売買するいわゆるダフ屋が登場するなど、人気の過熱が社会現象としても現れ始めていました。

大会を制した常勝軍団

激戦を勝ち抜き、第9回大会の栄冠に輝いたのは、都市対抗野球の歴史において輝かしい実績を誇る東京倶楽部でした。この大会期間中、東京倶楽部は順調な勝ち上がりばかりではなく、苦しい試合を乗り越えて決勝まで駒を進めました。迎えた決勝戦は8月12日、相手は川崎市のコロムビアでした。決勝戦は東京倶楽部の投手・宮武とコロムビアの投手・鈴木の投げ合いとなりましたが、東京倶楽部が投打にわたって圧倒。わずか4安打に抑え込む完封勝利を収め、4対0でコロムビアを下しました。

この優勝は、東京倶楽部にとって2年ぶり、そして史上最多となる4回目の都市対抗野球大会制覇という快挙でした。彼らの粘り強い戦いと、決勝での見事な投打がかみ合った勝利は、当時の野球ファンに強い印象を残しました。

最優秀選手

大会の最優秀選手には、惜しくも決勝で敗れた川崎市・コロムビアの若林忠志投手が選ばれました。優勝チーム以外の選手が最高栄誉に輝いたことは、彼個人の卓越した投球内容が高く評価されたことを示しています。若林投手の力投は、多くの観衆に深い感銘を与えました。

第9回都市対抗野球大会は、名称変更や予選方式の確立といった制度面での大きな転換点を迎えつつ、白熱した試合と社会現象となるほどの人気ぶりを見せつけ、その後の都市対抗野球の発展に重要な足跡を残した大会としています。

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