第90期棋聖戦
将棋の八大タイトル戦の一つである棋聖戦は、毎年多くの棋士が参加し、年間を通じて熱戦が繰り広げられる権威ある棋戦です。第90期棋聖戦は、スポンサーである
ヒューリック株式会社の名を冠し、「第90期
ヒューリック杯棋聖戦」として、2018年度(2018年5月28日)に開幕し、翌2019年度の7月9日に終局を迎えました。この期は、挑戦者決定戦、そして五番勝負におけるドラマが
将棋ファンの大きな関心を集めました。
大会形式
棋聖戦は、シード棋士と、多数の参加者による予選を勝ち抜いた棋士とによって争われます。まず、一次予選、二次予選が行われ、これを勝ち抜いた棋士が、前期成績優秀者などのシード棋士と共に、挑戦者決定トーナメントに進出します。挑戦者決定トーナメントは決勝トーナメント形式で行われ、その優勝者が棋聖位保持者への挑戦権を獲得します。
挑戦者決定戦
第90期棋聖戦における挑戦者決定トーナメントでは、多くの強豪が参加し、手に汗握る対局が展開されました。その頂上決戦である挑戦者決定戦に進出したのは、当時、棋王と王将の二つのタイトルを保持していた渡辺明二冠と、ベテラン実力者の
郷田真隆九段でした。この一局は、どちらが勝ってもおかしくない緊迫した内容となりましたが、最終的には渡辺二冠が勝利を収めました。この勝利により、渡辺二冠は、当時の棋聖である豊島将之棋聖への挑戦権を見事獲得しました。
五番勝負
挑戦者となった渡辺明二冠は、2019年6月から、棋聖位を持つ豊島将之棋聖との五番勝負に挑みました。豊島棋聖は当時、棋聖に加え
将棋界最高峰のタイトルである竜王と名人も保持しており、三冠(後に四冠)を達成するなど、まさに
将棋界の盟主とも呼べる存在でした。対する渡辺挑戦者も、長年にわたりトップ棋士として君臨しており、その実力は誰もが認めるところでした。
互いのプライドと戦略がぶつかり合った五番勝負は、予測不能な展開を見せました。しかし、シリーズが進むにつれて渡辺挑戦者がその実力を遺憾なく発揮し、豊島棋聖に対して優位に立ちます。結果として、渡辺挑戦者が3勝1敗というスコアで五番勝負を制し、見事に棋聖のタイトルを奪取しました。
結果と影響
この第90期棋聖戦の結果は、
将棋界に大きなインパクトを与えました。
まず、渡辺明棋士にとっては、キャリアで初めてとなる棋聖位の獲得となりました。長年にわたり多くのタイトルを獲得してきた渡辺棋士でしたが、意外にも棋聖位だけは縁がありませんでした。この獲得により、渡辺棋士は全八大タイトルのうち六つを獲得したことになり、その偉大な実績に新たな一つが加わりました。
さらに重要なのは、この勝利によって渡辺棋士が三冠に復帰したことです。彼はかつて、竜王・王将・棋王を同時に保持し三冠を達成した経験がありましたが、2013年に竜王を失冠して以来、約5年半の間、二冠の状態が続いていました。この度、棋王・王将に棋聖を加え再び三冠となったことは、渡辺棋士の
将棋界における地位を改めて揺るぎないものとしました。
一方、豊島将之棋聖は棋聖位を失いましたが、当時既に竜王・名人を保持しており、その後王位も獲得して四冠となるなど、依然としてトップ中のトップ棋士としての活躍を続けていました。しかし、この棋聖戦での敗北は、豊島棋士にとって、その後のタイトル戦線にも少なからず影響を与える出来事であったと言えるでしょう。
第90期棋聖戦は、渡辺明というトップ棋士が新たなタイトルを獲得し、再び複数タイトル保持者の頂点へと返り咲いた歴史的な棋戦として、
将棋史にその名を刻んでいます。