第91回全国高等学校野球選手権大会決勝

2009年（平成21年）8月24日、阪神甲子園球場にて行われた、第91回全国高等学校野球選手権大会の決勝戦。この年の夏、甲子園の頂点をかけたのは、新潟県勢として初めて決勝の舞台に立ち、春夏通じて初優勝を目指す日本文理高等学校と、大会最多記録を更新する7度目の優勝を目指す愛知県代表の中京大学附属中京高等学校（以下、中京大中京）という顔合わせとなった。

この大会には、地方予選を勝ち上がった49校が出場。8月8日に開幕し、雨天順延を挟みながら勝ち上がり、決勝戦を迎えた。大会前の評価では、両校とも強力打線ながら、中京大中京に長打力で優位性があると見られていた。日本文理は抽選により2回戦から登場し、決勝まで駒を進めた。

試合経過

2009年 8月24日13時1分、先攻・日本文理、後攻・中京大中京でプレーボール。先発マウンドには、日本文理のエース伊藤直輝投手、中京大中京のエース堂林翔太投手がそれぞれ上がった。

初回表、日本文理は一死からヒットでランナーを出したが、後続がダブルプレーに倒れ無得点。その裏、中京大中京は二死二塁から4番堂林選手がライトスタンドへ先制2点本塁打を放った。その後もチャンスを作ったが、日本文理の伊藤投手が粘り、追加点は許さなかった（2-0）。

2回表、日本文理は連続二塁打で1点を返す（2-1）。3回表には、2番高橋隼選手がレフトスタンドへソロ本塁打を放ち、日本文理が同点に追いついた（2-2）。しかし3回裏、中京大中京は満塁とするもあと一本が出ず無得点に終わるなど、序盤は一進一退の攻防が続いた。

試合が大きく動いたのは6回裏。中京大中京は二死満塁から4番堂林選手がレフト前へ適時打を放ち2点を勝ち越すと、その後も攻撃の手を緩めず、この回、打者一巡の猛攻で一挙6点を挙げ、8対2とリードを広げた。

7回表に日本文理が1点を返し（8-3）、その裏に中京大中京が2点を追加し（10-3）、8回表に日本文理が1点を返した（10-4）時点で、8回を終え中京大中京が10対4と大量リードを奪っていた。中京大中京の7度目の優勝は目前に迫っているかに見えた。

劇的な最終回

迎えた9回表、中京大中京は一度右翼に回っていたエースの堂林投手が再びマウンドに上がった（森本投手は一塁へ）。日本文理は簡単に二死となり、打席には1番切手選手。2ストライクと追い込まれ、中京大中京の優勝まであとストライク一つとなった。

しかし、切手選手は粘りに粘って四球を選び出塁。さらに盗塁で二塁へ進む。続く2番高橋隼選手は8球粘った末、フルカウントからの9球目をレフトセンターへ運び、適時二塁打として1点を返した（10-5）。3番武石選手も7球目をライト線に運び、これが適時三塁打となり、点差を4点とした（10-6）。

日本文理に追い上げムードが漂う中、4番吉田選手が放った三塁方向へのファウルフライは、三塁手河合選手が追いつきながらも落球。本来ならゲームセットとなるはずが、試合は続行された。日本文理は絶体絶命のピンチを脱し、続く打席で堂林投手は吉田選手に死球を与え満塁とした。ここで中京大中京ベンチは再び森本投手をマウンドへ送った（堂林投手は右翼へ）。

しかし、再びマウンドに上がった森本投手も、日本文理の勢いを止められない。5番高橋義選手に四球を与え、再び満塁となる。そして打席には、この日先発し、大量失点を許していたエース伊藤投手が立った。球場全体から「イトウコール」が沸き起こる中、伊藤投手は三遊間を破るヒット。ランナー二人が生還し、点差はついに2点（10-8）となった。

なおも一死一、二塁の場面で、代打石塚選手が初球をレフト前へ運び、セカンドランナーが生還。ついに1点差（10-9）にまで迫った。一死一、三塁とさらにチャンスは広がり、打席にはこの回の先頭打者だった若林選手。若林選手が放った強烈な打球は、しかし三塁手河合選手の正面をつくライナーとなり、ようやく試合は終了した。

最終的に10対9で中京大中京が接戦を制し、大会史上最多となる7回目の優勝を達成した。

エピソード

試合後の優勝インタビューで、中京大中京のエース堂林投手は、9回に自ら志願して再び登板するも、追い上げを許してマウンドを降りたことに触れ、「情けなくて…」と涙ながらにチームメイトに謝罪した。一方、日本文理の大井監督は試合前、「笑って新潟に帰ろう」と選手たちに語りかけ、選手たちはその言葉通り、清々しい表情で甲子園を後にした。エースの伊藤投手も試合後、「僕たちは幸せ者だ。勝てなかったのに、まるで勝ったかのような雰囲気で終われるなんて滅多にないことだろう。あの9回がなければ、ただ新潟県勢として初めて決勝に出ただけで終わっていただろう」と語り、劇的な最終回を振り返った。

この大会期間中は新型インフルエンザが流行しており、日本文理の応援団にも感染者が出ていた。

この試合のテレビ実況を務めた朝日放送テレビの小縣裕介アナウンサーは、9回に日本文理が伊藤投手の適時打で2点差に迫った際、「つないだ、つないだ！日本文理の夏はまだ終わらなーい！」と叫び、その熱い実況は後に様々なメディアでも取り上げられ、話題となった。

大会100回を記念して実施された「甲子園ベストゲーム47」と題した投票企画では、この試合は新潟県で1位、愛知県で2位に選ばれた。さらに翌年の「甲子園ベストゲームファイナル」でも、投票数2位となるなど、多くの高校野球ファンにとって記憶に残る一戦として語り継がれている。

もう一度検索