笹村越郎

笹村越郎（ささむら えつろう）は、明治35年（1902年）7月27日に生を受け、昭和56年（1981年）8月23日にその生涯を終えた、日本の鉄道分野および実業界において重要な足跡を残した人物です。

山口県に生まれた笹村氏は、旧制明治中学で学び、さらに勉学を深めるため京都帝国大学工学部へと進学しました。大正16年（1927年）に同大学を卒業すると、同年、鉄道を管轄する国家機関である鉄道省に入省し、キャリアをスタートさせました。

鉄道省では、まず地方機関の要職として四国鉄道局の局長を務めるなど、地方の鉄道運営において指揮を執りました。その後、本省勤務となり、運輸総局の車輛局長に就任。ここでは鉄道車両の整備や開発に関する政策決定に深く関わり、日本の鉄道技術の進歩と効率的な運用に貢献しました。

戦後の鉄道事業を担う日本国有鉄道（国鉄）が発足すると、笹村氏は国鉄に移籍しました。国鉄では、昭和26年（1951年）に理事に就任し、組織の中枢で経営に関与しました。翌昭和27年（1952年）には、鉄道インフラの建設、維持、改良を司る重要なポストである工務局長を務め、日本の鉄道網の基盤強化に尽力しました。また、総裁室勤務も経験し、国鉄のトップレベルでの業務に携わりました。

昭和30年（1955年）、笹村氏は官界を離れ、民間企業である汽車製造株式会社（後の川崎重工業の一部）へと転じました。ここでは専務取締役に就任し、実業家としての手腕を発揮する機会を得ました。鉄道車両メーカーである汽車製造において、彼は技術的な知見とこれまでの行政経験を活かした経営に携わりました。

そして昭和39年（1964年）、彼は汽車製造の代表取締役社長に就任しました。この年は、日本の高度経済成長を象徴する出来事が複数あった年です。特に、アジア初のオリンピックが東京で開催され、世界に向けて日本の復興と発展を示す機会となりました。また、日本の大動脈を結ぶ東海道新幹線が開業し、高速鉄道時代の幕開けを告げました。このような歴史的な年に、鉄道車両産業の中核を担う企業のトップとして、笹村氏はリーダーシップを発揮しました。社長として、彼は会社の財務基盤強化に注力し、資本金を従来の額から26億5200万円へと大幅に増強することを実現しました。これは、企業がさらなる成長を遂げ、激動する経済環境に対応するための重要な経営判断でした。

笹村越郎氏は、鉄道官僚として戦前・戦後の日本の鉄道インフラ構築と運営に深く関わり、実業家としては鉄道車両メーカーの経営を牽引し、その事業発展に貢献しました。官民双方の立場で日本の近代化と産業の発展に寄与した、多岐にわたるキャリアを持った人物であり、昭和56年（1981年）、79歳でその波乱に富んだ生涯を閉じました。

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