等々力巳吉

等々力巳吉：教師から画家へ、そして異国の地で磨かれた才能

等々力巳吉（1893年-1959年）は、長野県安曇野市出身の洋画家です。彼の生涯は、教育者としての職務と画家としての情熱が交錯する、波乱に富んだものでした。高等小学校卒業後、地元の小学校で教鞭を執りながら、絵画への探究心を燃やし続けました。日々の教育活動の中で培われた観察眼と表現力は、後の画業に大きく貢献することになります。

本格的に画家の道を歩み始める転機は、昭和3年（1928年）の事でした。教職を休職し、シベリア鉄道を経てパリへと留学します。3年間という歳月を、アカデミー・ランソンで研鑽を積み、巨匠オトン・フリエスに師事しました。ダゲール街という芸術の息吹が感じられる場所で、西洋絵画の技術を習得し、独自の画風を確立していくことになります。

パリでの充実した留学生活を経て、昭和5年（1930年）、等々力巳吉はスイスとイタリアを巡る旅に出ます。この旅は、彼の感性をさらに深めることとなります。「ヴェニスの船着場」という作品で二科展に入選を果たし、画家としての地位を確立しました。帰国後は東京市郊外の練馬にアトリエを構え、創作活動に没頭します。

昭和12年（1937年）には、朝日新聞社の嘱託として従軍画家となり、旧満州や北京の風景を描きました。そこで目にした壮大な景色や人々の暮らしは、彼の画業に新たなインスピレーションを与え、多くの作品を生み出す原動力となります。これらの作品は日本の新聞紙面を飾り、広く世間に知られることとなりました。

昭和18年（1943年）には北京郊外へと移り住み、中国画の研究に没頭しました。異なる文化や様式への探求は、彼の芸術表現をさらに豊かに、奥行きのあるものへと変容させていきます。終戦後、昭和21年（1946年）に帰国。東京と安曇野の二つのアトリエを拠点に創作活動を続け、日展や一水会展などに出品を重ねました。

等々力巳吉は、教師としての経験、パリでの研鑽、従軍画家としての活動、そして中国画への探求など、多様な経験を背景に独自の画風を築き上げました。彼の作品には、風景の繊細な描写、そしてそこに息づく人々の温かさや力強さが表現されています。彼の生涯は、芸術への飽くなき探求心と、教育者としての使命感の両方を持ち合わせた、稀有な画家としての物語と言えるでしょう。現在も彼の作品は、人々に深い感動を与え続けています。彼の作品を通して、激動の時代を生き抜いた一人の画家の情熱に触れることができます。等々力巳吉の作品は、安曇野市をはじめとする各地の美術館や資料館で鑑賞することができます。興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。

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