筑前竹槍一揆

筑前竹槍一揆：明治初期の民衆蜂起

筑前竹槍一揆は、1873年（明治6年）6月に福岡県で発生した大規模な民衆暴動です。明治新政府の政策に対する農民たちの不満が爆発し、約10万人が蜂起して福岡県庁などを焼き討ちしました。当時の社会情勢と一揆の経緯、その後の影響について解説します。

背景：明治維新と社会の混乱

明治維新後、政府は近代化を推し進めるため、様々な改革を矢継ぎ早に実行しました。徴兵制、太陽暦の採用、身分制度の廃止など、急激な変化は社会に混乱をもたらし、一般大衆の間に不満が鬱積していました。特に、九州地方を襲った大干ばつと米価の暴騰は、農民の生活を困窮させ、不満をさらに増幅させました。

発端：猪膝打ちこわし

一揆の直接的なきっかけは、1873年6月12日に嘉麻郡高倉村（現・飯塚市高倉）で発生した「猪膝（いのひざ）打ちこわし」です。日吉神社で雨乞い祈願をしていた農民たちが、米相場の情報を不正に操作する者たちを発見し、彼らを止めようと猪膝宿へ向かいました。しかし、口論から乱闘に発展し、農民が捕縛される事態となります。これに怒った嘉麻郡の農民たちは、6月16日に猪膝宿を襲撃し、騒ぎは近隣地域へと拡大していきました。

経過：福岡県庁への進撃

一揆勢は猪膝から大隈、穂波郡へと勢力を広げ、福岡城を目指して進撃しました。東からは箱崎・博多の市中へ、南からは秋月方面から、西からは早良・志摩方面から民衆が合流し、その数は最終的に約10万人に達しました。参加者の中には、「武士と百姓の喧嘩が始まった」という噂を信じ、自村を守るために竹槍を用意した者もいました。6月20日には博多の豪商が襲撃され、県庁の官舎も標的となりました。事態を重く見た県は鎮圧隊を発砲、抜刀隊も出動し、一揆勢は徐々に鎮圧されていきました。

主な要求

一揆勢が県に提出した嘆願書には、以下のような要求が記されていました。

年貢3年分の免除
学校、徴兵、地券の取りやめ
藩札の維持
黒田長知の帰国
被差別民の維持
旧暦の復活

これらの要求は、新政府の政策に対する不満や、社会の変化に対する不安を反映したものでした。

結果と影響

一揆の結果、学校や官舎、豪商の家などが多数破壊され、4590軒の家屋が損壊、死傷者は70人に及びました。参加者に対する処罰は厳しく、斬罪3名、絞罪1名を含む多数の者が処罰されました。この事件の責任を取り、福岡県参事が免官されています。

筑前竹槍一揆は、明治初期における最大規模の民衆蜂起の一つであり、新政府の政策に対する民衆の不満が表面化した事件でした。この事件を教訓に、政府は民衆の声に耳を傾け、より慎重な政策運営を行う必要に迫られました。また、この一揆は、その後の自由民権運動にも影響を与えたと言われています。

関連書籍

『筑前竹槍一揆』紫村 一重 葦書房 (1973/1/1)
『筑前江川谷 竹槍一揆から秋月の乱まで』多田茂治、葦書房 1979
『筑前竹槍一揆論』上杉聡,石滝豊美、海鳥社 (1988/7/29)
『筑前竹槍一揆研究ノート』石瀧豊美、花乱社 (2012/5/1)
『近代化と教育 - 筑前竹槍一揆から学校教育の必要性を考える』森 邦昭、デザインエッグ社 (2015/6/29)
小説『百姓組頭・井上勝次』平木俊敬、のぶ工房（2019/7）

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