筑豊弁

筑豊弁（ちくほうべん）

筑豊弁は、福岡県の中央部に位置する筑豊地方で使われている日本語の方言です。この地域は、かつての筑前国と豊前国にまたがっており、そのため、方言も肥筑方言（筑前方言）と豊日方言（豊前方言）の接触地帯という特徴を持っています。

筑豊弁の内部には、地域による細かな違いが見られます。大きく分けると、旧筑前国側の嘉飯山地区（飯塚市周辺）で話される飯塚弁と、旧豊前国側の田川地区（田川市周辺）で話される田川弁の二つに分けられます。特に田川弁は、豊日方言の影響が強く、「～よか」や「～おいしか」のようなカ語尾を使わないのが特徴です。一方、直鞍地区では、アクセントや語彙において肥筑方言的な要素が最も強く、直方市の直方弁、鞍手町の鞍手弁、旧宮田町の宮田弁などが存在します。

アクセントは、外輪東京式アクセントに分類され、九州の方言の中では、北九州弁や大分弁と並んで、標準語のアクセントに最も近いとされています。

筑豊弁の主な語彙

筑豊弁には、独特の語彙や表現が多数存在します。以下に、その一部を飯塚弁（飯）と田川弁（田）に分けて紹介します。

っちゃ：（飯・田）「～だよ」の意味で、強調する際に用いられます。豊日方言の特徴です。（例：「田川弁でしゃべれっち言われても急には出らんっちゃ！」＝田川弁で話せと言われても、すぐには出てこないよ！）
ばい：（飯・田）「～だよ」の意味で、主に肯定文で使われます。「っちゃ」と似た用法です。肥筑方言の特徴です。
き：（飯・田）「～ので」「～から」の意味で、理由や原因を表す接続助詞です。博多弁の「けん」、北九州弁の「け」に相当します。（例：「分からんき、教えて」＝分からないから、教えて）
～（し）ちょる /（し）ちょう：（飯・田）「～（し）ている」「～（し終え）ている」の意味です。（例：「このページの予習しちょる？」（すでに）このページの予習をしている？ / 例：「ちゃんと顔洗っちょう？」（すでに）ちゃんと顔を洗った？)
～（し）よる / （し）よう：（飯・田）「～（し）ている」の意味です。（例：「このページの予習しよる？」＝（今継続して）このページの予習をしている？ / 例：「ちゃんと顔洗いよう？」＝（習慣的に）ちゃんと顔を洗っている？)
～（ん）じょ / （ん）じょう：（田）「～ばかり」の意味です。（例：「またいらん事んじょしよるが・・・」＝また余計なことばかりしているなぁ・・・）
～（っ）ち：（田）「～（だっ）て」の意味です。（例：「あいつこの事知らんっち」＝あいつはこのことを知らないんだって / 例：「なんち？」＝何だって？）豊日方言的特徴
しゃあしい：（飯・田）「うるさい」「やかましい」の意味です。「（作業・手順が）ややこしくて面倒だ」という意味でも使われます。
くらす：（飯・田）「殴る」。「食らわす」が変化したものです。
はよ：（飯・田）「早く」の意味です。
いもる：（飯・田）「びびる」の意味です。
なん：（飯・田）「なに」の意味です。
せんね：（飯・田）「しなさい」の意味です。
ばってん：（飯）「だけど」「けど」の意味です。肥筑方言の特徴です。（例：「そうばってん」＝そうだけど）
きさん：（飯・田）「お前」の意味です。「お前」を使う人も少なくありません。
なして：（飯）「なんで」「どうして」の意味です。
なし：（田）「なんで」「どうして」の意味です。
つまらん / つぁらん：（飯・田）「駄目だ」の意味です。「つまらない」の意味でも使われます。（例：「こっち来（こ）なつぁらんよ」＝こっちに来なきゃ駄目だよ）
おらぶ：（飯）「叫ぶ」「大きな声で呼ぶ」の意味です。
やろ：（飯・田）「～だろ」「～でしょう」の意味です。
せん：（飯・田）「しない」の意味です。
ばっさ：（飯）「とても」の意味です。
ぱける：（田）「壊れる」「故障する」の意味です。
からう：（飯・田）「背負う」の意味です。
かてる / かたらす：（飯・田）「参加させる」の意味です。
なんかかる：（飯・田）「寄りかかる」「もたれる」の意味です。
うち：（飯・田）「わたし」の意味で、主に女性が使います。（例：「うちんとこは」＝私の家では）
ぎょうらしい：（田）「大げさな」「騒々しい」の意味です。
はがいい：（田）「歯痒い」の意味です。
おうちゃきい / ちゃきい：（田）「横着だ」の意味です。
むげない / むげねえ：（田）「可哀想だ」の意味です。
めんどしい：（田）「恥ずかしい」の意味です。若者の間では、「面倒くさい」の意味で誤用されることもあります。
とっとる：（田）「取ってある」の意味です。（例：「これとっとん？」＝これは取ってあるの？)
わるそ：（飯・田）「悪い子」「悪戯っ子」「悪ガキ」または悪戯そのものを指します。悪僧坊主（わるそぼうず）からきています。
げってん：（飯・田）「へそ曲がり」「意固地で、すぐに癇癪を起こすこと」。「げってんを出す・げってんまわす」等と言います。（例：「あん子はいっつもげってんじょう出しよる」＝あの子はいつも癇癪ばかり起こしている / 例：「こん、げってんもんが！」＝この、頑固者（偏屈者）め！）
とんぴん：（飯・田）「調子（者）」、「はしゃぐこと」、「おてんば」を意味します。動詞として使う場合は、「とんぴんはる（＝調子に乗る、図に乗る）」「とんぴんはねる（＝はしゃぎ回る）」「とんぴんつく（＝調子付く）」などと用います。（例：「なんとんぴんはっちょんかちゃ」＝何調子に乗っているんだよ / 例：「あんたがとんぴんはねるきやろ」＝あなたがはしゃぎ回るからでしょう / 例：「まあ、（お）とんぴん嬢さんやね」＝まあ、お転婆なお嬢さんだね）

外部リンク

筑豊弁コレクション
筑豊弁辞典 - ウェイバックマシン （2005年12月7日アーカイブ分）
田川の方言（田川弁）
九州ノザワ株式会社「今日の知っ得情報〜！！」
筑豊・田川弁 第一弾
筑豊・田川弁 第二弾
筑豊 直方の方言 - ウェイバックマシン（2006年1月18日アーカイブ分）
方言講座（筑豊弁） - YouTube（みづきあかり （旧芸名・美月あかり））

関連項目

豊日方言
福岡県豊前方言
北九州弁
肥筑方言
筑前方言
博多弁
* 宗像弁

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