篝火

『源氏物語』第二十七帖「篝火」の解説

「篝火」は、『源氏物語』五十四帖中、第二十七帖にあたる巻名です。玉鬘（たまかずら）に関する十帖の物語の六番目でもあります。巻名は、光源氏と玉鬘が交わした歌、「篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ」「行く方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば」に由来しています。これらの歌は、消えゆく篝火の煙に、二人の儚くも深い恋を喩えたもので、物語全体の切ない雰囲気を象徴的に表しています。

あらすじ

物語は、光源氏が36歳を迎えた7月の出来事を描きます。当時、内大臣の姫君である近江の君の悪評が世間に広まっていました。この噂話を耳にした玉鬘は、光源氏に引き取られて以来の穏やかな日々を改めて実感し、光源氏への信頼と愛情を深めていきます。

ある夕月夜、光源氏は玉鬘のもとを訪れます。琴を枕に寄り添いながら、光源氏は自身の深い愛情を、庭先に焚かれた篝火の煙にたとえた歌を詠みます。それは、玉鬘への揺るぎない想いの表現であり、同時に、その恋の儚さを予感させるものだったと言えるでしょう。玉鬘は返歌しますが、光源氏の熱烈な愛情表現に戸惑いを隠せない様子が伺えます。

その頃、東の対では柏木（かしわぎ）と夕霧（ゆうぎり）が合奏していました。光源氏は彼らを玉鬘のもとに招き、演奏を依頼します。玉鬘に密かな恋心を抱く柏木は、緊張した面持ちで演奏に参加します。名乗りを合せない兄弟の演奏を聴く玉鬘の心中は、複雑な感情で満たされていたことでしょう。兄弟の演奏を背景に、玉鬘の心情、光源氏と玉鬘の恋、そして柏木の秘めた想いが複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。篝火の揺らめく光と煙、そして琴の音色が織りなす、幻想的で切ない雰囲気は、読者の心に深く刻まれることでしょう。

巻名の由来と解釈

巻名である「篝火」は、物語の重要な象徴となっています。篝火の燃え盛る炎と、やがて消えていく煙は、光源氏と玉鬘の恋の盛衰、そしてその儚さを象徴的に表しています。また、夜空に消えていく煙は、恋の終わりを暗示し、物語全体に漂う切ない雰囲気を強調しています。

登場人物たちの心情

光源氏は、玉鬘への深い愛情を抱いていますが、同時に、年齢や立場による葛藤も抱えています。玉鬘は、光源氏への愛情と、柏木への複雑な感情の間で揺れ動きます。柏木は、玉鬘への秘めた想いを抱えながらも、その想いを素直に表現することができません。それぞれの登場人物の心情が複雑に絡み合い、物語に奥行きを与えています。

作品全体のテーマ

「篝火」は、恋の儚さ、そして人間の複雑な感情を描いた、非常に繊細で美しい巻です。篝火の光と影、煙の消えゆく様子は、物語全体を象徴的に表現しており、読者に深い余韻を残します。 物語を読み解くことで、平安時代の貴族社会の雰囲気や、登場人物たちの心情をより深く理解することができます。

参考資料

渋谷栄一による定家本の本文・現代語訳
『源氏物語　27 篝火』：新字新仮名 - 青空文庫（与謝野晶子訳）

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