精神病院の中庭

『精神病院の中庭』

フランシスコ・デ・ゴヤによる『精神病院の中庭』は、1793年から1794年にかけて制作された油彩画で、精神病の現実を描いた重要な作品として知られています。この絵は、彼が医療施設で目撃した光景を基にしており、入院患者の惨状をリアルに表現しています。アメリカ、テキサス州ダラスの南メソジスト大学美術館に所蔵されています。

制作の背景

ゴヤは長年、王族や貴族の肖像画を描くことで名声を築いてきましたが、この作品は彼が自らの意思で制作した絵画の一部です。1792年の重病により彼は聴覚を失い、精神的な不安と苦悩のなかで作品を描き続けました。この連作の一環として、彼は自身の不安と恐怖を作品で表現しようとしました。

ゴヤによれば、これらの作品は「苦しみを考察することによって得られた想像力」に基づいており、彼は自らの状況を反映させています。また、彼は精神病院や刑務所の改革についても関心を寄せ、社会の中の不条理を描くことをテーマにしていました。絵には、精神病患者が社会から疎外されている状況が描かれており、ロバート・ヒューズはそれを「病の発見や治療の試みをせずに放置された、小さなゴミ捨て場」と表現しています。

作品の内容

この絵画は、強制的に精神病院に隔離された患者たちを描いています。天井のない殺風景な中庭で、患者が恐怖と孤独の中に置かれています。中央には、2人の強い患者が激しく争っている姿があり、彼らを監視するスタッフが鞭で制圧しようとしています。周囲には、多くの患者が様々な感情を抱えています。笑みを浮かべる者、絶望する者、または呆然と立ちすくむ者など、様々な姿が描かれ、全体を通して恐怖感と孤独感が漂っています。

光の具合も特徴的で、開いた上部から明るい光が差し込み、空間の不確かさを演出しています。この光は、患者たちの精神的な混乱を反映するかのように見え、かつてのアプローチとは異なり、より深い理解が試みられています。

この作品は、精神疾患が持つ暗い側面を捉えており、ウィリアム・ホガースの作品にみられるような表面的な描写を超えています。ジョン・J・シオファロは、監禁された人々が抱える不合理な現実を描写していることを指摘しています。

ゴヤは友人に宛てた手紙で、絵画が「全裸で戦っている2人の男と、他の患者たち」を描いたことを説明しています。これは当時の精神病患者の厳しい扱いを告発するものであり、アーサー・ダントーはこの作品がゴヤのキャリアにおいて転換点を示していると述べています。

絵画の来歴

『精神病院の中庭』は1846年にマドリードのキント伯爵によって所有され、その後様々なコレクターの手に渡りました。最終的にはアメリカの美術収集家アルガー・ハートル・メドウズにより購入され、1967年には南メソジスト大学に寄贈されました。この絵画は、フランシスコ・デ・ゴヤの深い思想と、彼が抱えた精神的な苦悩が色濃く表現された作品であり、多くの人々に影響を与える重要な芸術作品です。

もう一度検索