紙の牙

紙の牙

松本清張による短編小説『紙の牙』は、1958年に雑誌『日本』に掲載され、その後1959年に短編集として出版されました。この作品は、権力の腐敗と個人の道徳に関する深い考察を提示しています。

あらすじ

物語はR市役所の厚生課長、菅沢圭太郎を中心に進行します。彼は愛人の昌子と一緒に温泉町を散策中、突然市政新聞「明友新聞」の記者、高畠久雄に遭遇します。この新聞は「市民に代わって市政を監視する」という名目ながら、実態は市の職員への寄付の強要や、露骨な違法行為を行っていました。

ある初夏の日、圭太郎の元に梟印殺虫剤株式会社の小林智平という男が現れ、自社の製品を大量に購入してほしいと頼み込みます。その後、高畠も登場し、圭太郎に対して威圧的に殺虫剤購入を迫ります。短絡的に事を進めた圭太郎は、この殺虫剤の試験を行いますが、結果は一流メーカー品に比べて実効性が乏しいことが判明します。しかし、愛人との関係のスキャンダルを恐れる圭太郎は、市の予算でこの製品を購入する決断を下します。

秋になると、報政新報の記者梨木宗介が圭太郎に接触し、彼の弱みを握った脅迫めいた発言をします。圭太郎は、報政新報への寄付を申し出、経済的に困窮しながらも自らのスキャンダルを隠蔽するために寄付を続けることになります。月給からの寄付で生活が厳しくなるも、彼は暴露されるよりマシだと自分を納得させます。

寄付が3ヶ月終わった後、梨木はさらに5ヶ月の支援を求めてきます。この恐喝はなかなか収まらず、圭太郎はついに梨木との関係を断つ決意をしますが、梨木は逃れられない策謀をちらつかせて圭太郎をますます追い詰めていきます。

エピソード

松本清張は作品の背後に実際の東京近郊の地方自治体での出来事をイメージしていたと述べています。また、執筆過程でのメモには、政治と新聞の結びつきや、汚職の構造がいかにして生まれるかを示す内容が記されていました。このことから、『紙の牙』はフィクションでありながら、現実社会に起こり得る風景を映し出しています。

テレビドラマ化

この物語は1959年、1960年、1964年の三度にわたりテレビドラマ化されています。各バージョンで異なるキャストが起用され、ストーリーの核心を力強く表現しました。例えば、1959年版では下元勉が菅沢を演じ、1990年代の特集枠やNHKのシリーズでも再構成されるなど、幅広い視聴者に受け入れられています。

『紙の牙』は単なる小説の枠を超え、日本の社会的問題への鋭い視点と批判をもたらす作品として、今なお多くの読者に影響を与え続けています。

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