素敵な歌と舟はゆく

オタール・イオセリアーニ監督による1999年の[[映画]]『素敵な歌と舟はゆく』（原題：Adieu, plancher des vaches!）は、一見するとバラバラな人生を送る3人の男たちの物語を、独特の視点で描き出しています。

まず一人目は、鉄道清掃員の仕事と、ハーレーダビッドソンでナンパをするという二面性を持つ男。彼はカフェで働く女性に恋心を抱き、アプローチを試みますが、結果は失敗に終わります。

二人目は、裕福な家庭で育ったものの、実際は不良少年や浮浪者と付き合うことを好む富豪の息子、ニコラです。普段は高級スーツを着こなす彼ですが、街に出るとジーンズに着替え、自家用船で町へ繰り出します。アルバイトとして皿洗いを行い、そこで出会った浮浪者たちと交流を深めます。彼もまた、カフェの女性に恋心を抱いていますが、積極的な行動に出ることができません。ある日、ピストルの腕を買われ、スーパー強盗に加わってしまいます。逮捕され刑務所へ収監された後、出所したニコラは、カフェの女性が鉄道清掃員と結婚したことを知ることになります。

そして三人目、ニコラの父親は、鉄砲と模型機関車が趣味の酔いどれ亭主。実業家である妻からは疎まれ、家庭内では肩身の狭い日々を送っています。しかし、息子の友人である浮浪者と意気投合し、家出を決意。帆船に乗り込み、大海原へと旅立ちます。

この映画は、一見するとそれぞれのエピソードが独立しているように見えますが、実は互いに絡み合い、複雑に絡み合った人間関係と、それぞれの心の機微を繊細に描いています。カフェの女性は、3人の男たちの物語を繋ぐ重要な存在であり、彼らの運命を左右する存在となっています。

監督自身も出演している本作は、イオセリアーニ監督独特のユーモアと詩情に満ちた作品です。フランス語の原題「さらば、陸よ」はラストシーンと深く関わっており、物語全体のテーマを象徴する言葉と言えるでしょう。セルジュ・カガンスキとのインタビューで、イオセリアーニ監督は本作を「われわれを取り囲む城壁の裏側にある別世界の夢」を表現したコメディーと語っています。この言葉は、映画全体の雰囲気や、現実と非現実が混ざり合ったような不思議な世界観をよく表していると言えるでしょう。

また、映画の見どころの一つとして、邸宅の場面でたびたび登場するハゲコウの存在が挙げられます。監督は、このハゲコウを「哲学者」の象徴として意図的に登場させていると語っています。このハゲコウは、物語全体に漂う独特の雰囲気をさらに強調し、観る者に深遠な印象を与えます。さらに、映画には『盗賊、第７章』にも出演したアミラナシュヴィリが同じ浮浪者の役で出演していることや、『蝶々狩り』でおなじみのナルダ・ブランシェの出演なども見逃せないポイントです。

『素敵な歌と舟はゆく』は、一見すると単純な物語に見えるかもしれませんが、その奥深くに潜む人間の感情や、人生の複雑さを巧みに描き出した、何度でも観返したくなるような、魅力的な作品です。それぞれの登場人物の行動や心情、そして彼らの織りなす物語全体から、人生の様々な側面や、人間存在の本質について考えさせられる、そんな作品と言えるでしょう。

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