細川道久

細川道久氏は、1959年に生まれた日本の歴史学者です。現在の所属は鹿児島大学法文学部で、主に西洋史、中でもカナダ史およびイギリス帝国史を専門分野としています。

来歴

岐阜県に生まれ育ち、東海高等学校を卒業しました。歴史学への関心から東京大学文学部西洋史学科に進学し、学部課程を修了しました。さらに専門的な研究を深めるため、1988年には東京大学大学院人文科学研究科の博士課程へ進みました。

大学院での学びを経て、鹿児島大学法文学部に助教授として着任し、教育者としてのキャリアをスタートさせました。その後、研究と教育における功績が認められ、2003年には同大学の教授に昇任しました。

学術的貢献

細川氏の学術的な歩みにおいて特筆すべきは、2005年に東京大学から取得した博士（文学）の学位です。学位論文のタイトルは「19世紀末～20世紀後半のカナダ社会におけるイギリス帝国のプレゼンスの意味とその変容――帝国記念日の分析を手がかりとして」であり、カナダ社会におけるイギリス帝国の影響が時間とともにどのように変化していったかを、独自のアプローチで深く掘り下げたものです。この研究の質は高く評価され、2008年にはカナダ出版賞を受賞しています。

研究分野と主な業績

彼の研究の中心は、カナダという国家がイギリス帝国との関係性の中でどのように独自のアイデンティティを確立していったかという点にあります。カナダ・ナショナリズムの形成過程、多文化社会を形作る上で重要な要素となった移民史、そして先住民問題や優生学といったカナダ史における重要な社会問題にも光を当てています。また、カナダの自立過程を、イギリスだけでなくアメリカ合衆国も含めた北大西洋世界という広範な文脈で捉え直し、英米関係や民族問題がカナダに与えた影響を分析しています。コモンウェルスの歴史や現代における役割についても研究対象としています。

これらの研究成果は、多数の著作として公表されています。主な単著としては、『カナダ・ナショナリズムとイギリス帝国』（刀水書房、2007年）、『カナダの歴史がわかる25話』（明石書店、2007年）といったカナダ史研究の基本となるものから、『「白人」支配のカナダ史――移民・先住民・優生学』（彩流社、2012年）のように社会問題に切り込むもの、そして『カナダの自立と北大西洋世界』（刀水書房、2014年）や、特定の地域に焦点を当てた『ニューファンドランド――いちばん古くていちばん新しいカナダ』（彩流社、2017年）などがあります。

単著以外にも、研究の多様性を示す業績として、山本正氏との共編著『コモンウェルスとは何か』（ミネルヴァ書房、2014年）や、カナダ史研究の概説書である編著『カナダの歴史を知るための50章』（明石書店、2017年）があります。また、秋田茂氏との共著『駒形丸事件』（ちくま新書、2021年）では、インド太平洋世界とイギリス帝国の関係性を歴史的な事件を通して分析しています。

さらに、海外の重要な研究書を日本に紹介する翻訳活動も精力的に行っています。ヴァレリー・ノールズの『カナダ移民史』（明石書店、2014年）や、ドミニク・クレマンの『カナダ人権史』（明石書店、2018年）といったカナダの社会形成に関する基礎文献の翻訳に加え、デイヴィッド・キャナダインやD・アーミテイジなどの著作を、他の研究者との共訳で多数手がけています。これらの翻訳は、帝国論、歴史学理論、言語帝国主義、思想史といった幅広い学術分野に及び、日本の研究者や学生が海外の最新の研究成果に触れる機会を提供しています。

細川道久氏は、カナダ史およびイギリス帝国史研究の第一人者として、多岐にわたるテーマに取り組み、その成果を著作や翻訳を通じて広く発信しています。教育者としても、鹿児島大学で後進の育成に貢献しており、彼の研究はカナダの複雑な歴史と現代社会の理解に不可欠な視点を提供し続けています。

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