細野ひで晃

細野 ひで晃（ほその ひであき）

1973年生まれ、日本のクリエイティブ・ディレクター、CMディレクター、そして映画監督。幼少期から海外での生活を経験し、その中で培われた多様な価値観と独自の視点をクリエイティブ活動の基盤としている。国内外で数多くのヒットCMや映像作品を手がけ、広告分野を中心に多岐にわたる活動を展開している。

西ドイツのデュッセルドルフで生を受けた細野氏は、商社マンであった父親の赴任に伴い、イランでの生活を経験する。しかし、1980年にイラン・イラク戦争が勃発。空路が閉鎖される極限状況の中、他の日本人家族と共にバスで砂漠を横断し、トルコ経由で命がけの帰国を果たした。この壮絶な体験、特に愛用品を置いたまま故郷を離れざるを得なかった子ども心に刻まれた喪失感が、後に戦争を憎む原点となり、日清食品の画期的なCMシリーズ「NO BORDER」の演出思想にも深く影響を与えている。

帰国後、ボストンのケンブリッジハイスクールを経て、ロサンゼルスの名門アートセンターカレッジで映像制作を専攻。在学中にはプロデューサー奥山和由氏に見出され、映画初監督作品『ア・ルース・ボーイ』を完成させるも、事情により未公開となる。

大学卒業後の1998年、電通テック（現・電通プロモーションプラス）に入社。CMディレクターとしてのキャリアを本格的にスタートさせた。日清食品の「カップヌードル」シリーズや富士急ハイランドの「FUJIYAMA」など、国境や既成概念を問い直すような力強いメッセージとエンターテイメント性を兼ね備えた作品で注目を集め、国内外の広告賞を多数受賞。特にアジア太平洋広告祭（ADFEST）ではBest Direction賞を受賞するなど、その演出手腕は高く評価された。

2004年には、同世代のディレクターたちと共に映像作家集団「THE DIRECTORS GUILD」を設立。自らが理想とする創作環境の追求を開始する。さらに2006年には、自身の個人事務所「DAYTORA ENTERTAINMENT」を設立し、CMの枠を超えた多様なプロジェクトを手がけるようになる。宮藤官九郎氏が脚本を担当した長編映画『鈍獣』（2008年）の監督を務め、劇場公開を果たした。

細野氏の活躍は日本国内に留まらない。2009年には米国の主要エージェント「THE SWEET SHOP」と契約し、海外での活動を本格化。同年、海外の映像業界誌「SHOOT MAGAZINE」にて「世界が選ぶディレクター10人」の一人に選出される快挙を達成する。特に米国トヨタ「Prius」のCMシリーズ（2009～2013年）では、日本人ディレクターとしては異例の規模と長期にわたり演出を担当。「Harmony」篇をはじめとする一連の作品は全米で放送され、カンヌ国際広告祭やクリオ賞などを受賞。米国市場におけるトヨタのブランドイメージ確立に大きく貢献した。2011年からは米国大手エージェンシー「Radical Media」とも契約し、活動拠点をロサンゼルスにも置いている。

近年は、長年培ってきた映像制作の知見を活かしつつ、活動領域をさらに拡大。企業ブランディングやクリエイティブ・ディレクション、映画・ドラマの企画開発なども手がけている。緻密なマーケティング戦略に基づいた上で、人々の記憶に残るアウトプットを生み出す手腕は、映像、グラフィック、ウェブ、空間設計、CI/VI、新規事業開発など多岐に及び、ストラテジー立案からクリエイティブ実行までを一貫して担えることから、企業経営層からの信頼も厚い。

また、自身の経験や思考をまとめた書籍も複数出版しており、論理的な文章表現にも定評がある。絵本『おばハニーの夢』や、自己分析本『自分♡Dog』などがある。さらには、次世代の映像クリエイター育成を目的としたプログラム「THE DIRECTORS FARM」を発足させるなど、後進の指導にも尽力している。

ロサンゼルスでは、自身がプロデュースする日本食レストラン「Gozen」の経営も行うなど、ビジネスの領域でも手腕を発揮。現在は日本と米国の2拠点で活動を続け、そのクリエイティブな探求と挑戦は続いている。

主な受賞歴

アジア太平洋広告祭 Best Direction賞、グランプリ、銀賞
ACC CMフェスティバル 銀賞、ブロンズ、ファイナリスト
クリオ賞 銀賞
カンヌ国際広告祭 ファイナリスト
ニューヨークフェスティバル シルバー
One Show ショートリスト
ギャラクシー賞 大賞、入賞

その他、国内外で多数の広告賞を受賞している。

主な代表作

CM：日清食品「カップヌードル NO BORDER」「Freedom Project」、富士急ハイランド「FUJIYAMA」、ソフトバンクモバイル「白戸家シリーズ」、JAL「ニッポンをみつけようシリーズ」、米国トヨタ「Prius」シリーズ（Harmonyなど）、ネイチャーラボ「MARO」シリーズ、ダイアンシリーズ、ランドリンシリーズ など多数。
映画：『鈍獣』（監督）
著作：『おばハニーの夢』、『自分♡Dog 〜人間バランス診断書〜』

国内外の広告賞審査員も務めるなど、日本のクリエイティブ界を牽引する一人として、その影響力は広がり続けている。

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