経営判断の原則

経営判断の原則：企業経営者の行動と法的責任

経営判断の原則とは、企業の取締役などの経営者が行った意思決定について、裁判所が事後的にその是非を判断する際に、一定の制約を設ける法理です。アメリカ合衆国で生まれたこの原則は、多くの国、そして日本でも、会社法の重要な構成要素として広く受け入れられています。

アメリカ合衆国における原則

アメリカにおいて、この原則は、取締役会による経営判断を裁判所が容易に覆さないことを意味します。取締役が善管注意義務、忠実義務、誠実義務を遵守し、合理的根拠に基づいた判断を行っていれば、たとえその結果が会社にとって不利益になったとしても、裁判所は容易に責任を問わないというものです。

この原則の根底にあるのは、企業経営が本質的にリスクを伴う活動であるという認識です。もし、結果論的に損失が出ただけで経営者の責任を問うとなると、経営者はリスク回避に傾き、積極的な経営判断ができなくなります。そのため、裁判所は、ある程度の経営判断の自由を認めることで、企業の活性化を促そうとしています。

しかし、この原則は絶対的なものではありません。取締役が不十分な情報に基づいて判断したり、自己の利益を優先したり、明らかに不合理な判断を行った場合は、この原則は適用されず、責任を問われる可能性があります。例えば、買収防衛策において、脅威の認識が不合理であったり、手段が過剰であったりする場合などは、この原則の例外となります。

裁判所は、取締役が誠実に、そして会社の利益を最大化するために努力したかどうかを重視します。必要な情報を収集し、客観的な状況判断を行い、複数の選択肢の中から最適なものを選択したと認められる場合、経営判断は尊重されます。

日本における原則

日本においても、経営判断の原則は、判例法として確立しています。取締役は、善管注意義務と忠実義務を負いますが、業務執行においては一定の裁量を認められています。結果的に会社に損害が生じたとしても、判断当時における状況や、業界における通常の経営者の判断と比較して、著しく不合理な判断でなかった限り、取締役の責任は問われません。

日本の裁判例では、取締役の判断に不注意や著しい不合理性が認められる場合にのみ、善管注意義務違反が認められる傾向があります。これは、アメリカ合衆国の原則と本質的に同じ考え方です。

明文規定はないものの、最高裁判所を含む多くの判例で、この原則が適用されており、日本の会社法における重要な要素となっています。経営判断の自由と取締役の責任のバランスを保つために、この原則は重要な役割を果たしています。

まとめ

経営判断の原則は、企業経営の活性化と取締役の責任のバランスを保つために存在します。経営者は、善管注意義務と忠実義務を遵守し、合理的根拠に基づいた判断を行うことで、法的リスクを軽減し、企業の成長に貢献できるのです。しかし、これは経営者に無制限の自由を与えるものではなく、明らかに不合理な判断や義務違反は、引き続き責任追及の対象となります。

もう一度検索