絵画芸術 (フェルメールの絵画)

絵画芸術

『絵画芸術』（かいがげいじゅつ、英文: The Art of Painting）は、オランダの著名な画家ヨハネス・フェルメールが1666年頃に制作した絵画です。この作品は、多くの美術史家によって寓意画として認識されており、『絵画の寓意』や『画家のアトリエ』といった別名でも知られています。『絵画芸術』は、フェルメールの作品の中でも最大かつ最も複雑な作品であり、特にその写実的なアトリエ描写と、内部を照らし出す光の使い方が高く評価されています。

この絵には、画家とそのモデルと思われる二人の人物が描かれています。画家の顔ははっきりと見えず、フェルメール自身の自画像だと考える研究者もいます。また、室内には様々な物が描かれており、これが画家のアトリエにしては場違いである印象を持たせます。特に、白と黒の大理石が使われた床や金のシャンデリアは、裕福な家庭の持ち物であることを示しています。背景に描かれた大きな地図には、当時のネーデルラント連邦共和国の主要な七州が示されています。この地図は、版画家クラース・ヤンスゾーン・フィスヘルによって1636年に制作されたものです。

象徴と寓意

『絵画芸術』には、多くの象徴や寓意が隠されているとされています。作品の主題として歴史の女神クリオが挙げられ、彼女の月桂樹の花冠や名声を示すバロック・トランペット、さらに左手に持つトゥキディデスの『戦史』を示する書物が描かれています。これらは、ルネサンス期イタリアの美術学者チェーザレ・リーパの寓意画集に見られる記述と一致します。

シャンデリアには、オーストリア王家のシンボルである双頭の鷲が描かれています。この双頭の鷲は、カトリック信仰の象徴とされており、フェルメールがプロテスタントの支配が強いネーデルラントでカトリックに改宗した珍しい画家であった背景を持っています。また、シャンデリアに一本のロウソクも立っていないことは、当時のネーデルラントにおけるカトリック信仰の弾圧を示唆しているとも考えられています。

背景の地図には、ネーデルラントの北部と南部を隔てる裂け目が描かれていますが、これは当時の国家分裂を表しています。この地図は、スペイン・ハプスブルクから独立した北部と、まだ支配下にあった南部の状況を示すものです。

さらに、20世紀に活躍したシュルレアリスムの画家サルバドール・ダリは、自身の作品『テーブルとして使われるフェルメールの亡霊』に『絵画芸術』の要素を取り入れました。

来歴

フェルメールは非常にこの作品を大切にしており、借金に悩んでいた時でもこの絵を手放さなかったとされています。彼が1675年に亡くなると、未亡人のカタリーナは債権者から逃れるため、作品を母であるマーリア・ティンスに譲渡しましたが、フェルメールの遺言執行人であるアントニ・ファン・レーウェンフックはこの譲渡が違法であると考え、異論を呈しました。18世紀には、絵の所有者は明確ではなかったものの、裕福なオランダ人医師ヘラルト・ファン・スウィーテンが購入した記録があります。

その後1813年に、ボヘミアの貴族ヨハン・ルドルフ・チェルニンが購入しました。1860年まで、この絵はフェルメールではなく、同時代の画家ピーテル・デ・ホーホの作品と考えられていた時期もありましたが、19世紀後半には研究者たちによってフェルメールの作であることが認識されました。

ナチスからの関心

1938年、ナチス・ドイツがオーストリアに侵攻。ヒトラーは『絵画芸術』を165万帝国マルクで購入し、その後、連合国によって発見・押収されました。所有者のチェルニン家からは自発的な売却とされ、1946年に絵はオーストリア政府へ返還され、その後はウィーンの美術史美術館に収蔵されています。

2009年には、チェルニン家の相続人がセーニン・オーストリア文化相に対し、絵画の返還を求めました。1960年代の要求は却下されましたが、1998年の返還規定制定以降、再び法的な立場が有利になる可能性が指摘されています。

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