緊急経済安定化法

緊急経済安定化法（2008年）とは

緊急経済安定化法（Emergency Economic Stabilization Act of 2008）は、2008年10月にアメリカ合衆国で成立した連邦法です。この法律は、サブプライムローン問題とリーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけとした世界的な金融危機に対応するために策定されました。日本では、金融安定化法とも呼ばれています。

法の概要

この法律の主な目的は、金融機関が抱える不良資産を買い取るために、最大7000億ドルもの公的資金を投入することでした。これにより、金融システムの安定化を図り、経済の混乱を食い止める狙いがありました。

法律には、以下の内容も含まれていました。

監視委員会の設置: 不良資産の買い取り価格を監視するための委員会が設置されました。
経営者報酬の制限: 制度が適用される金融機関の経営者報酬や退職金が制限されました。
預金保険の拡大: 経営破綻時の預金保証上限が一時的に10万ドルから25万ドルに引き上げられました。
税制優遇措置: 税制上の優遇措置が延長されました。

法案成立までの経緯

金融安定化策の議論は、2008年9月下旬から10月にかけて集中的に行われました。当初、アメリカ議会と政府は法案に合意しましたが、下院での採決で否決されるという波乱がありました。

下院での否決

2008年9月29日、下院での採決では、共和党の約7割と民主党の約4割が反対しました。結果、賛成205票、反対228票で法案は否決されました。この結果は、アメリカ政府や議会だけでなく、世界中の投資家を失望させ、ニューヨーク証券取引所ではダウ平均株価が史上2番目の下げ幅を記録しました。この影響は世界中の株式市場に波及し、株価が暴落する事態となりました。

否決の背景

法案が否決された背景には、アメリカの伝統的な「自己責任」の価値観がありました。多くの人々は、「これまで好き勝手に金儲けをしてきた人々を、なぜ税金で救済しなければならないのか」という不満を抱いていました。また、金融業界は、社会問題や格差に対して自己責任論を主張し、公的資金による救済に反対してきた経緯があり、一般層や議員からの反感を買っていました。

さらに、共和党は、政府の経済介入に批判的な立場であり、大統領選挙や議会選挙を控えていた時期でもあったため、有権者の反発を避けるため、法案に反対する動きが強かったと考えられます。また、ナンシー・ペロシ下院議長のブッシュ大統領の政策批判も、共和党議員の心象を悪くしたという見方もあります。

法案の修正と成立

下院での否決を受けて、アメリカ政府と上院は直ちに法案の修正作業に着手しました。修正案では、預金保護の拡充、税制優遇措置、公的資金を受けた企業の経営者報酬制限などが盛り込まれました。その結果、上院では賛成74票、反対25票で可決されました。

最終的に、2008年10月3日に下院で賛成263票、反対171票で法案が可決され、ブッシュ大統領の署名を経て、緊急経済安定化法は成立しました。

法律案の詳細

この法律案は、アメリカ合衆国下院提出の法律番号H.R.1424（Public Law 110-343）の一部です。この法律案では、以下の3つの法案が一括して審議されました。

Division A - Emergency Economic Stabilization Act of 2008: 本法律案、緊急経済安定化法。
Division B - Energy Improvement and Extension Act of 2008: 省エネルギーを促進するための法律で、プラグインハイブリッドカーなどの省エネルギー製品に対する税制優遇が盛り込まれています。
Division C - Tax Extenders and Alternative Minimum Tax Relief Act of 2008: 代替最低税（AMT）などの税制優遇措置を定めた税制救済法。



この法律は、世界的な金融危機に対処するための重要な一歩となりましたが、その成立過程は、アメリカの政治や社会における様々な矛盾や対立を浮き彫りにしました。

脚注

サブプライムローン
サブプライム住宅ローン危機の年表
世界金融危機 (2007年-)

外部リンク

* Complete text of H.R. 1424（法律案全文。英語）

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