緋が走る

作品概要

漫画『緋が走る』は、ジョー指月が原作を手がけ、あおきてつおが作画を担当した陶芸をテーマにした物語です。集英社の漫画雑誌『スーパージャンプ』にて、1992年から1998年まで連載され、単行本は全15巻が刊行されました。また、1999年には『緋が走る～陶芸青春記～』としてテレビドラマ化もされています。本編の好評を受け、続編『美咲の器－それからの緋が走る－』が1999年から2004年にかけて連載され、単行本全9巻が出版されました。

この物語の中心にある「緋」とは、陶芸の世界で最高の美とされる現象を指します。炎の色を超え、器の内部から表面へと鮮烈な赤が奔り出す様は、多くの陶芸家が追い求めながらも、いまだ完璧に再現されたことのない幻の色彩とされています。

物語のはじまり

物語の主人公は、東京で大学生活を送っていた松本美咲。彼女は、故郷である萩で無名の陶芸家として活動していた父、松本竜雪の娘です。ある日、父からの突然の呼び出しを受け萩へ戻りますが、時すでに遅く、父は帰らぬ人となっていました。父の最期の言葉に従い、窯に残された作品を取り出した時、美咲は奇妙な器を発見します。その側面に鮮やかに浮かび上がっていたのは、まさに幻とされていた「緋」でした。父が唯一「緋」を走らせた陶芸家であったことを知った美咲は、「緋」の持つ圧倒的な美しさに魅せられ、大学を辞めて陶芸の道に進むことを決意します。

『緋が走る』：陶芸家としての挑戦

陶芸家を志した美咲は、まず地元の長州窯元である斉藤巌のもとで修行を開始します。斉藤は美咲の才能を見抜き、あえて早めに独立を促します。独立後、美咲は様々な困難や試練に立ち向かいます。日本海の荒波をイメージした料理に合う湯呑み茶碗の製作依頼では、経験不足を不安視する依頼主からベテラン陶芸家との共作を提案されますが、内側に荒れる海を表現した美咲の作品が見事に選ばれます。その後も、ビアジョッキの成功、コンペへの参加、対立勢力からの妨害工作に屈しない粘り強い作陶（野焼き）、そして幻の「赤土部焼き」再現プロジェクトへの参加など、数々の挑戦を通じて陶芸家としての腕を磨き、名を上げていきます。

物語の大きな山場となるのが、今魯山人と呼ばれる食通、藤堂権左衛門が主催する「美食の儀」に供する器の選定です。美咲は「赤」をテーマにした作品提出を求められ、佐渡の無名異焼からヒントを得て「緋沈み」「緋結晶」の皿を制作。徳利から箸まで17品目を競う選考で、自身の得意・不得意を見極める戦略で難関を突破し、最終的に陶芸界の巨匠・尼子龍之介との陶壁勝負を制して優勝を飾ります。

美食の儀の賞金を元に、故郷萩に「焼き物横町」を建設しようとする美咲ですが、萩焼の実力者である九鬼山からの反対に遭います。毛利秀元が茶会で用いたとされる幻の「12枚の皿」の再現勝負を九鬼山に挑まれた美咲は、素焼きをしない特殊な技法で緋を走らせることに成功しますが、茶会の器としては不適格と判断され敗北。しかし、その力量を認められた美咲は、九鬼山から焼き物横町計画の承認を得ます。そして物語は、古くから伝わる「緋」のルーツに触れ、師や仲間、そして父の遺志を受け継ぎながら、ついに自身の手で緋を完成させるクライマックスへと向かいます。

『美咲の器－それからの緋が走る－』：新たな探求

「緋」を走らせることに成功した美咲でしたが、陶芸家としての引き出しの少なさに悩み、新たな道を模索します。湯布院での競技会参加、萩焼のルーツを探る韓国での修行を経て、緋と並ぶ「点の色」の存在を知ります。この謎の色彩を再現するため、中国、インドネシア、タイ、トルコ、スペイン、フランス、ドイツと世界各地を巡り、七つの秘釉を探し求める壮大な旅に出ます。そして七十番目の試みで「天の器」を完成させます。

しかし、師である陶子からまだ修行不足を指摘された美咲は、「聖母」と呼ばれる陶芸家の足跡をたどり、日本各地（大分、長野、愛知、瀬戸、美濃、益子など）の焼き物を巡る旅を続けます。その旅の途中で病に冒された母と再会し、母子で「雪化粧焼」を完成させた後に母を看取ります。高杉晋吾と結婚した後も、美咲の探求は止まることなく、母が生涯をかけて目指した「日本焼」の完成を目標に、更なる高みを目指し続けます。

主要な登場人物

主人公・松本美咲を中心に、日本で唯一「緋」を走らせた父であり、美咲の師匠でもある松本竜雪（物語冒頭で死去）、美咲の最初の師匠となる長州窯の斉藤巌、美咲のライバルや協力者となる一柳窯の一柳乙彦、陶彩堂の御曹司で後に美咲の伴侶となる高杉晋吾（柴田晋吾）、美食の儀を主催する藤堂権左衛門、陶芸界の巨匠尼子龍之介、そして美咲の前に立ちはだかる九鬼山など、個性豊かな人物たちが物語を彩ります。

テレビドラマ化

1999年4月7日から5月12日まで、NHK総合テレビジョン「水曜ドラマの花束」枠にて、『緋が走る～陶芸青春記～』のタイトルで全6回で放送されました。松本美咲役を田中美里が演じ、一柳乙彦役を山田純大、松本竜雪役を永島敏行が務めるなど、実力派キャストが集結しました。脚本は冨川元文、音楽は渡辺俊幸が担当し、漫画の世界観を映像で表現しました。

作品が描くもの

『緋が走る』シリーズは、陶芸という奥深い世界を舞台に、一人の若き女性が困難に立ち向かいながら自己の才能を開花させ、人間としても成長していく姿を描いた青春物語です。究極の美である「緋」を追い求める情熱、師や仲間、ライバルとの絆、そして自己探求の旅を通じて、読む者に感動と勇気を与える作品となっています。

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