緑の回廊

緑の回廊とは

緑の回廊（グリーンコリドー）とは、生態学における重要な概念であり、自然生態系の保護を目的とした取り組みです。具体的には、人間の生活圏によって分断されてしまった野生生物の生息地同士を、植物群落や水域などの連続性によって繋ぎ、動物たちが安全に移動できるようにすることで、生物多様性の維持・向上を図ります。

この概念は、必ずしも人工的に作られたものだけを指すわけではなく、自然に形成されたものであっても、同様の機能を持つものであれば「緑の回廊」とみなされます。また、「水と緑の回廊」という言葉もあるように、水生生物の移動を促進するために、水域を繋げることも重要な要素となります。

緑の回廊の役割

動物が生息するためには、一定の面積の土地が必要です。もし、その土地の面積が、動物の行動範囲内で得られる餌の量に見合わない場合、動物は飢え、最終的には死に至ります。動物の種類によって必要な土地の広さは異なりますが、草食動物でも肉食動物でも、これは共通の原理です。

また、近親交配による遺伝的な劣化（近交弱勢）を避けて、安定的に繁殖を続けるためには、ある程度の個体数（少なくとも数十個体）からなる個体群が必要です。そして、その個体群を維持するための土地の面積は、個体が必要とする面積の数十倍にもなります。

もし、人為的な自然破壊などによって、個体群維持に必要な生息地の面積が不足し、他の生息地との行き来もできなくなってしまった場合、その個体群はやがて死滅してしまいます。例えば、ムササビのように、地上に降りることをストレスに感じる動物は、たとえ近い距離であっても、自ら隣の森林へ移動することはほとんどありません。つまり、総計では十分な面積の土地が残っていても、それが細分化されてしまっている場合、その土地では個体群が生存できず、結果として生物多様性が失われてしまうのです。

このような状況を打開するために、緑の回廊は非常に有効な手段となります。生物多様性を保全するためには、まとまった広い生息地を確保することが最も望ましいですが、現実的には人間の経済活動との両立が難しく、多くの場合は困難です。そのため、次善の策として、残された生息地同士を植物群落で繋いだり、水路を設けたりすることで、動物たちが生息地間を移動できるようにします。

緑の回廊は、わずかな面積を追加するだけでも大きな効果が期待できます。生息地間の動物の移動が増加するだけでなく、動物が媒介となって植物の受粉や種子の拡散も促進されるため、生態系全体の活性化にも繋がります。

水と緑の回廊

水生生物にとっても、水域を繋げることで陸上生物と同様の効果が得られます。特に、トンボのように繁殖のために一定の距離範囲内の水面を必要とする動物の場合は、水面を設けることによって個体群の維持が可能になり、分布を広げることもできます。このような理由から、水域を繋げる試みも「緑の回廊」と同様に重要であり、「水と緑の回廊」と呼ばれることもあります。

緑の回廊の例

都市部における公園などの緑地や街路樹の活用も、緑の回廊としての効果が期待できます。しかし、数メートル程度の幅しかない緑の多い歩道を「緑の回廊」と呼ぶのは、生態学的な意味合いとは異なります。生態学的な意味での緑の回廊は、少なくともキロメートル単位の幅が必要とされます。

また、緑の回廊は、人工的に設けられたものだけでなく、自然の森林が大きな森林地帯の間を繋いでいる場合も指すことがあります。

まとめ

緑の回廊は、生物多様性を守る上で不可欠な概念です。分断された生息地を繋ぐことで、動物たちの移動を助け、遺伝的な多様性を維持し、生態系全体の安定に貢献します。その効果は、都市部での緑化活動にも応用され、より豊かな自然環境の創造に役立っています。

参考文献

高槻成紀『野生動物と共存できるか　－保全生態学入門』、79-82頁。

関連項目

生息地分断化

外部リンク

* 林野庁緑の回廊

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