緑の果て

手塚治虫『緑の果て』：思考を反映する植物の星と、人類の運命

手塚治虫の短編漫画『緑の果て』は、異なる雑誌に掲載された2つのバージョンが存在する、独特のSF作品です。どちらも、放射能汚染で住めなくなった地球を脱出した人類が、謎の星にたどり着くことから始まります。この星は、植物が驚くべき能力を持つ異様な世界です。

異様な植物の星

この星の植物は、ただそこにあるだけでなく、動物、特に人間の思考や願望を感知し、それに応じた形へと変化します。まるで人間の心の鏡のように、電柱のような植物や、歯ブラシ、食器、鞄、さらにはバス停に似た植物まで存在します。

地球から逃れてきた男たちは、この星の植物の奇妙な性質に驚きと恐怖を覚えます。特に、主人公の谷村六郎は、地球に残してきた恋人のエミの姿をした植物と遭遇し、その正体を探ろうとします。顕微鏡での観察で、その植物が葉緑素を含んだ繊維で構成されていることが判明するものの、その本質は謎に包まれたままです。

人間の欲望と植物の寄生

物語の中で、植物は単なる奇妙な存在というだけでなく、人間の欲望や行動とも密接に関連しています。乗組員の一人が原因不明の腫瘍に苦しみ、手術の結果、体の中から植物の胚芽が発見されます。この事実は、この星の植物が動物に寄生し、他の天体へと移動して繁殖するという恐るべき生態を示唆しています。

異なる結末：SFマガジン版とファニー版

『緑の果て』には、SFマガジン版とファニー版の2つのバージョンがあり、結末が大きく異なります。

SFマガジン版では、谷村とエミは、他の乗組員である阿部とトラブルに巻き込まれます。阿部がエミを奪おうとした際、谷村の負の感情が原因で悪魔のような植物が出現し、阿部を殺害します。その後、谷村とエミは、この星を脱出しますが、谷村は自身にそっくりな植物を残し、この星に新たな生命の始まりを告げるかのような形で物語は終わります。

ファニー版では、植物の正体が明らかになり、危険な存在であることが示されます。エミは植物の種を植え付けられた存在であり、人間を寄生させて繁殖しようとしていました。しかし、エミは谷村への愛から彼には種を植え付けませんでした。最終的に、脱出に成功したのは谷村ただ一人であり、他の乗組員は植物の餌食となり、宇宙船の中で植物がジャングルのように繁茂する様子が描かれ、谷村は夢の中で物語が幕を閉じます。

生命と孤独、そして人間の存在意義

『緑の果て』は、SF的な設定を通して、生命の起源と進化、人間の孤独、そして存在意義といった普遍的なテーマを問いかけています。思考を反映する植物という設定は、人間の潜在的な欲望や恐怖を鮮やかに表現し、読者に深い印象を与えます。2つの異なる結末は、人間の選択と運命の不確実性を示唆しており、読者に様々な解釈を促します。この作品は、手塚治虫の独特な世界観と想像力を存分に堪能できる、傑作短編と言えるでしょう。

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