緑柱石の宝冠

緑柱石の宝冠

「緑柱石の宝冠」（りょくちゅうせきのほうかん、The Adventure of the Beryl Coronet）は、イギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルによる短編小説で、シャーロック・ホームズシリーズの一作です。この作品は、1892年5月に「ストランド・マガジン」で初めて発表され、同年に出版された短編集『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されています。

あらすじ

物語はロンドンの銀行頭取、アレグザンダー・ホルダーの元に訪れた紳士から始まります。ホルダーは、ある高貴な人物から5万ポンドの借金を申し込まれ、担保として「緑柱石で飾られた宝冠」を預かることになります。彼はその宝冠を自宅で厳重に保管しようと考え、大切に書き物机に鍵をかけてしまいます。

しかし、その夜、2時頃にホルダーは物音に気付き、隣の部屋に入ると、息子のアーサーが宝冠を手にしているのを目撃します。アーサーは何か作業をしているようでしたが、ホルダーが声をかけると、宝冠は破損してしまっており、信じられない光景にホルダーは驚愕します。そして、アーサーを警察に通報することになりますが、家の中を捜索しても宝石は見つかりません。

ホームズは冷静にホルダーの話を聞き、アーサーが宝冠を持っていた動機について問いただします。ホルダーの屋敷を訪れたホームズは、内部を精密に調査し、アーサーが本当に犯人であるかどうか疑問を持つようになります。彼はまた、周囲の状況をも探り、解決の手がかりを探し続けます。

翌日、ホルダーは養女メアリーが家を出て行ったことを告げ、そこには彼女が残した書置きがありました。ホームズはこれをきっかけに、メアリーの行動を探り始めます。どうやらメアリーは、サー・ジョージ・バンウエルという男と交際しており、宝冠について彼に話していたようです。バンウエルは、借金に困っているアーサーを利用し、メアリーをそそのかしても宝冠を盗ませていたとのことです。

ホルダーがメアリーとアーサーの関係を知った後、ホームズはサー・ジョージ・バンウエルのもとへ赴き、彼の口を割らせます。証拠を突き付けると、バンウエルは最初は否定していましたが、次第に追い詰められ、犯行を認めざるを得なくなります。バンウエルは宝冠の一部を売却しており、その取り戻しをホームズが迅速に行います。最終的にホルダーはアーサーに詫び、無実を晴らすことになります。

この物語において注目されるのは、ホルダー氏が宝冠を預けた高貴な人物についての言及です。彼は「英国で最も身分の高く、最も高貴な人物」として描かれていますが、具体的に誰かは明記されていません。研究者たちはこの人物が放蕩で知られるエドワード7世であるとの説を持っており、彼が関与している事件を暗示しています。

実際、作品の背景には実在の人物が多く関わっており、物語の中で描かれる事件は、推理小説としてだけでなく、当時の社会状況をも反映しているといえるでしょう。ホームズの鋭い洞察力と推理が真相を明らかにする過程は、読者に深い印象を残します。

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