縁台将棋

縁台将棋：昭和の風情と現代への継承

縁台将棋とは、文字通り縁台の上で将棋を指す光景を指します。しかし、その意味はそれだけにとどまりません。夏の夕涼み、ビール片手に仲間と楽しむ気楽な将棋、そして、必ずしも上手い棋士同士が指すものではなく、初心者同士が肩肘張らずに楽しむ将棋、そのような意味合いを含んでいます。

かつては、日本の各地で、特に夏の夕方、庭先や路地の縁台に将棋盤を広げ、将棋を楽しむ光景は日常的に見られました。通行人が観戦に加わり、熱戦を繰り広げる様子は、地域社会の活気ある交流の象徴でもありました。銭湯で湯上がり後に楽しむ姿や、近隣住民同士の親睦を深める場としても、縁台将棋は重要な役割を担っていました。

使用される将棋盤は、折りたたみ式の普及品や、一枚板のシンプルなもの、中には縁台に直接升目を彫り込んだものなど、様々でした。駒も、紙製やベニヤ板製の簡素なものも多く使われていました。

棋力については、必ずしも高いとは限りません。むしろ、初心者同士が楽しむ場であることから、アヒル囲いや鬼殺しといった、特定の戦法や囲いが好んで使われることもありました。そのため、現在では「下手な将棋」の代名詞として使われることもあります。

しかし、その気軽さゆえに、縁台将棋は庶民的な人気を博しました。昭和30～40年代を舞台にした漫画や小説などにも、縁台将棋の光景は頻繁に登場し、当時の庶民生活の一端を垣間見せてくれます。北見けんいちの『焼けあとの元気くん』や、長谷川町子の『サザエさん』など、多くの作品で、縁台将棋は時代を彩る風物詩として描かれています。

しかし、近年では、縁台そのものが減少し、かつてのような光景は少なくなりました。平成以降、縁台将棋を見る機会は激減し、青空将棋や縁台将棋をテーマにしたイベントなどが、その名残を伝える程度となっています。

それでも、将棋を楽しむ文化は形を変えながら受け継がれています。インターネットの普及により、オンライン将棋が盛んになり、場所を選ばずに手軽に将棋を楽しむことが可能となりました。プロ棋士の羽生善治氏も、このインターネット中継が、かつての縁台将棋に通じるものがあると指摘しています。気軽に、そして気兼ねなく将棋を楽しむという精神は、時代を超えて受け継がれ、新たな形へと進化を遂げていると言えるでしょう。

近年では、子供を対象とした「子供縁台将棋」の大会なども開催され、縁台将棋の伝統を次世代へと繋ごうとする試みも続けられています。日本将棋連盟主催の大会や、地域を挙げて行われるイベントなどを通して、縁台将棋は、現代においても、人々を繋ぎ、地域を活性化させる力を持っていると言えるでしょう。

もう一度検索