縮図

徳田秋声『縮図』：自然主義文学の金字塔

『縮図』は、小説家・徳田秋声が晩年に手がけた長編小説であり、同作を原作とした映画作品です。作者の50年にわたる文学的集大成として、日本の自然主義文学の最高峰と評されることもあります。

小説『縮図』の成立と背景

小説は、1941年に『都新聞』で連載が開始されました。モデルとなったのは、白山で置屋を営む元芸者の小林政子。芸妓の世界を赤裸々に描いた内容が、戦時下の時局にそぐわないと判断され、連載は中断を余儀なくされました。その後、単行本化が試みられましたが、空襲により未発表部分の原稿とともに消失。しかし、見本刷が疎開していたことが幸いし、戦後の1946年に未発表部分を加えて刊行されました。

あらすじ

物語の主人公は、均平という男性。彼は明治時代の進歩的な思想に影響を受け、官吏や新聞記者など職を転々とします。その後、資産家の養子となりますが、養家との不和から家を出て、芸者上がりの女性・銀子と同棲生活を送っています。銀子は、貧しい家庭を支えるために芸者となり、苦労の多い人生を送ってきました。しかし、家庭を持つことに憧れ、素朴で明るい性格を失わずに生きています。

銀子の後ろ盾で、彼女が東京・白山で置屋を始めた頃、均平は別れて暮らす娘から手紙を受け取ります。結核で療養中の息子を見舞い、娘に銀子を紹介します。久しぶりの父子の対面はぎこちないものでしたが、長年のわだかまりはいくらか解消されたようでした。物語は、銀子の過去へと遡り、彼女の波乱万丈な人生が描かれていきます。

文学的な評価

広津和郎は、『縮図』における秋声の文章を「極度に簡潔」と評し、短い言葉の中に複雑な意味を凝縮させる技巧を絶賛しました。川端康成もまた、「近代日本の最高の小説であることは疑いない」と高く評価しています。自然主義文学の荘厳さと、作者の慈悲の心が込められた作品として、文学史上にその名を刻んでいます。

映画『縮図』

1953年には、新藤兼人監督によって映画化されました。映画版では、均平との関係は描かれず、銀子の前半生に焦点が当てられています。乙羽信子が銀子を演じ、その演技が高く評価されました。キネマ旬報ベストテンにも選出されています。

『縮図』が残したもの

徳田秋声の『縮図』は、激動の時代を生きた女性の姿を通して、人間の普遍的な感情や社会の矛盾を描き出した作品です。自然主義文学の傑作として、今もなお多くの読者に読み継がれています。

もう一度検索