繰形

モールディング：建築を彩る細長い装飾材

モールディングとは、建築物や家具などの表面の繋ぎ目を覆ったり、装飾を施すために用いられる、様々な断面の細長い建材です。古くから建築や彫刻の装飾に用いられ、伝統的には木材や石膏を加工して作られてきました。近年では、プラスチックや木質材料なども使用されるようになっています。

光と影の織りなす芸術

最も単純なモールディングでも、材質や彩色を変えずに、光と影の縞模様によって建築物に奥行きと立体感を与えます。例えば、凹面形のモールディングは、光によって上部が影になり、下部が明るくなることで、水平方向の縞模様を作り出します。逆に凸面形では、上部が明るく、下部が暗くなります。

このような光の陰影効果を利用したモールディングには、様々な種類があります。凹面形には、小えぐり繰形(cavetto)、大えぐり繰形(scotia)、えぐり繰形(congé)などがあり、凸面形には、卵状繰形(ovolo)、まんじゅう状繰形(echinus)、大玉縁(torus)、玉縁(astragal)などがあります。

これらの基本的な形状を組み合わせることで、さらに複雑で精緻な装飾を生み出すことができます。例えば、小えぐり繰形の上に卵状繰形を配置すると、全体としてS字の曲線を描くogee（またはcyma reversa）となります。逆に配置すると、S字の向きが逆になるcyma（またはcyma recta）となります。これらの組み合わせは、古典建築やゴシック建築など、様々な建築様式において重要な役割を果たしてきました。

多様な素材と形状：それぞれの役割

モールディングに使用される素材は多岐に渡り、木材、石、セメント、そして近年ではEPS樹脂にセメントコーティングを施したものなども用いられています。形状も様々で、半円形の玉縁(astragal)は防火ドアの気密性を高めるために用いられたり、薄い半円形の凸状小繰形(baguette)は、葉や真珠などの意匠で飾られたりします。

その他にも、壁と床の接合部を保護する幅木(baseboard)、板と板の接合部を隠す押縁(batten)、ドア枠やパネル枠などに用いられる浮出し繰形(bolection)、縄を編んだ形状の縄形繰形(cable molding)、壁を装飾する腰長押(chair rail)、雨水の浸入を防ぐ雨押さえ(drip cap)など、それぞれの用途に合わせた形状と素材が用いられています。

さらに、古典建築では、卵形とV字形が交互に並んだ卵鏃模様(egg-and-dart)や、帯状の装飾がくねくねと曲がる組紐飾り(guilloche)、丸い花の装飾である円花飾り(rosette)などが多く見られます。これらの装飾は、ギリシア建築やローマ建築、ルネサンス建築など、様々な建築様式に影響を与え、その歴史と文化を物語っています。

現代におけるモールディング

現代においても、モールディングは建築装飾において重要な役割を果たしています。様々な素材や形状、そしてデザインのバリエーションにより、現代建築にも自然に溶け込み、空間のアクセントとして用いられています。一方で、近年は環境や健康への影響を懸念する声もあり、新しい素材や製造方法の開発が求められています。

このように、モールディングは単なる装飾材ではなく、建築の歴史、文化、技術を凝縮した、奥深い存在と言えるでしょう。その多様な種類と形状、そして光と影との美しい調和は、これからも人々を魅了し続けることでしょう。

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