羅貫中

羅貫中（ら かんちゅう）について

羅貫中は、中国の元末から明初にかけて活動した作家で、通俗白話小説の分野で特に知られています。代表的な作品として、『三国志演義』と『水滸伝』があり、これらは中国文学の四大奇書の一つとされていますが、彼の正確な事績や生涯については多くの謎が残っています。

出身地と著作

羅貫中の生年や死年は不明で、さらに出身地についてもいくつもの説が存在します。山西省太原出身とされる一方で、山東省東平や浙江省杭州に由来するという説もあります。信頼のおける史料は少なく、その中でも唯一のものが、彼の友人である賈仲明によって書かれた『録鬼簿続編』です。この中でも「羅本（あざな貫中）」という人物が言及されていますが、その正確な関連性は不明です。

一般的に、施耐庵の弟子とされることもありますが、施耐庵に関する信頼性のある史料が欠けているため、この説には疑問の余地があります。さらに、彼が実際にどのような作品を執筆したのかについても、確証が乏しいのです。

作品の成立に関する議論

羅貫中が『三国志演義』や『水滸伝』の著者であるという説には、賛否が分かれています。日本の文学者高島俊男は、中国の学界で広く信じられている説とは反する見解を持ち、これらの作品が複数の作家によって編纂された可能性があると指摘しています。

明代の武将、高儒が編纂した蔵書目録『百川書志』には、これらの小説に関する希少な記録がありますが、信頼性に疑問が持たれています。さらに、『三国志演義』や『水滸伝』の成り立ちに関する記録は、古い版からの簡素な記載に留まっており、詳細な情報は乏しいのが現状です。

さまざまな主張

日本の研究者や中国の学者によってさまざまな仮説が展開される中、ある研究者は羅貫中を「元末の旅の劇作家」として位置付け、彼がこのような複雑な歴史小説を書くことは難しかったのではないかと述べています。また、当時の社会状況を考えると、高価な書物や資料にアクセスできた可能性も限られていたと考えられます。

吉林大学の金文京は、羅貫中に関する複数名の存在説を提唱し、出身地の多様性についても、元代の文化的背景から説明可能であるとしています。また、彼の雅号『湖海散人』が歴史上の人物から来ている可能性もあると示唆しています。

書物への疑問

他にも、『三遂平妖伝』や『残唐五代史演義』、『隋唐両朝志伝演義』といった作品も「羅貫中編」とされていますが、金文京はこれらの作品が彼の作である可能性は低いと考えています。これらの書物は『三国志演義』のスタイルを模して書かれており、実際には同じ物語の亜流に見える部分もあるからです。このような背景から、彼の固有の作品が存在するかどうかは不透明です。

伝説や評価

彼に関する伝説も存在し、例えば『西湖遊覧志余』には「小説数十種を編纂した」との記録がありますが、現在確認されている作品は極めて限られています。さらには、彼が俗悪な文を残したために不名誉な評判を受けたという伝説も伝わっています。

最後に、羅貫中の作品は後世にも大きな影響を与え、彼にまつわる多くの興味深い議論が続いていますが、彼自身の実像は今もなお霧に包まれたままと言えるでしょう。

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