美しき女教師

フランシスコ・デ・ゴヤの『美しき女教師』

フランシスコ・デ・ゴヤの「美しき女教師」（原題: Linda maestra!）は、1797年から1799年にかけて制作された銅版画です。この作品は、80点で構成される版画集《ロス・カプリーチョス》の第68番目にあたります。作品はエッチング技法で作られており、特に黒魔術をテーマにした連作の一部として描かれ、売春に対する批判的な視点を含んでいるとされています。

作品の内容

「美しき女教師」では、年老いた魔女が飛行方法を教えている若い魔女を描写しています。老魔女は箒に座り、その後ろに若い魔女がしがみついて空に昇っているという構図です。老魔女は両手で箒の柄をしっかりと持ち、飛行することに集中している様子が伺えます。一方、若い魔女は師匠の首にしがみつきつつ、地上を見下ろし、彼女たちを見上げる人々を観察しています。画面の右上隅には、翼を広げたフクロウが描かれ、この場面を見守っています。

魔女が空を飛ぶというテーマは、伝統的には魔女がサバトに参加するために使用する姿として知られており、多くの書物や手稿ではこのような飛行する魔女の描写が共通しています。またスペイン国立図書館に所蔵されている手稿は、作品が若い魔女に飛行を教える様子であることを指摘しています。

売春への暗示

ゴヤのこの作品には、単なる魔女の描写以上の意味があると考えられています。老魔女の姿は、若い女性を売春の仕事へと導く年長の売春婦を象徴していると解釈されているのです。その証拠として、初期バージョンの試し刷りではタイトルが「彼女を飛び立たせた」（La Volaron）であり、性的な含意を持っていたことが挙げられます。このため、後に無難なタイトル「美しき女教師」に変更されたとも言われています。スペイン国立図書館の手稿にある「あらゆる老女たちが立派な口ひげの人々の手から箒を手に取り、飛ぶ方法を教える」という注釈も、売春を寓意的に示唆しているとされています。

技法と描写

この作品では、ゴヤはドライポイントやエッチングの技法を駆使し、老魔女のしわの刻まれた肌と、若い女性の滑らかな肌との対比を細かく描き出しています。また、フクロウや地上の人物たちを精密に描写することで、全体の構図に深みを加えています。これにより、観察者がこの作品に込められたメッセージを感じ取りやすくなっているのです。

作品の来歴

作品の初期版には「La Volaron」というタイトルが記されており、その後のバージョンでは感嘆符が追加されています。この作品はプラド美術館に所蔵されており、ゴヤの死後、その素描は息子と孫に相続されました。最終的にはバレンティン・カルデレラの手に渡り、プラド美術館が1886年に購入しました。

結論

フランシスコ・デ・ゴヤの「美しき女教師」は、ただの幻想的なイメージを描くだけでなく、当時の社会に対する鋭い批判が織り込まれています。魔女の飛行を通して、売春と女性の自由の問題について考察を促す作品となっているのです。

もう一度検索