美しき運命の傷痕

『美しき運命の傷痕』（L'Enfer）は、2005年に公開されたフランス、イタリア、ベルギー、日本の合作によるドラマ映画です。1996年に亡くなった巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺作であり、ダンテの『神曲』を基にした三部作構想「天国」「地獄」「煉獄」のうち「地獄」編に当たります。「天国」編はトム・ティクヴァ監督によって既に映画化されています。

物語の中心は、孤独な女性セリーヌとその家族です。5歳の時に父を自殺で失い、母親と二人で暮らしてきたセリーヌは、現在、車椅子生活を送る高齢の母親を郊外の老人ホームに訪ねています。耳は聞こえるものの言葉を発しない、気難しい母親への訪問は、不眠症に悩むセリーヌにとって、長距離列車での睡眠を得るためでもあるのです。

セリーヌには姉のソフィと妹のアンヌがいますが、三姉妹は疎遠な状態にあります。ソフィは幼い子供を持つ母親ですが、夫の浮気を疑っています。一方、妹のアンヌは、親友の父親である大学教授フレデリックと不倫関係にあり、彼の子供を妊娠していることが明らかになります。フレデリックから一方的に別れを告げられたアンヌは、彼への執着を募らせていきます。

セリーヌは、セバスチャンという謎めいた男性と出会います。彼はセリーヌの名前を知っており、初めから彼女に特別な関心を寄せている様子です。セリーヌはセバスチャンに惹かれていきますが、彼には隠された過去がありました。

ソフィは夫の浮気を確信し、愛人の家を訪れた後、夫を家から追い出します。夫は愛人に捨てられ、家に戻ろうとしますが、ソフィは子供たちにも会わせません。

やがて、セバスチャンの衝撃的な告白が明らかになります。彼は同性愛者であり、少年時代にセリーヌの父である教師に一方的に好意を抱き、教官室で裸で迫った過去があったのです。その光景を幼いセリーヌとその母親が目撃したことで、セリーヌの父は家族から完全に切り離され、苦しい人生を送ることになりました。セバスチャンは、セリーヌに真実を伝え、父親の無実を証明するために近づいてきたのです。

その後、アンヌはフレデリックの事故死の報を聞きます。フレデリックの娘で、アンヌの親友は、アンヌが父親の愛人だったことを知り、激しく非難します。

セリーヌは久しぶりに姉や妹と連絡を取り、父の無実を知らせます。三姉妹は揃って老人ホームを訪れ、母にも真実を伝えようとしますが、母親は険しい表情で筆談で「それでも何も後悔しない」と答えるのです。

この映画は、家族の複雑な関係、過去の傷、そして許しというテーマを深く掘り下げています。それぞれの登場人物が抱える苦悩、葛藤、そしてそれぞれの選択が、観る者の心に深い余韻を残す、重厚で感動的な人間ドラマです。キャストには、エマニュエル・ベアール、カリン・ヴィアール、マリー・ジラン、キャロル・ブーケらフランスを代表する実力派俳優が名を連ねています。彼らの繊細な演技は、登場人物たちの内面を深く描き出し、物語にリアリティを与えています。

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