美山錦

美山錦（みやまにしき）は、日本の米の栽培品種の一つで、特に日本酒の醸造に欠かせない酒造好適米として広く知られています。長野県で生まれ、現在では長野県を中心に、秋田県、山形県、岩手県など東北地方を含む寒冷な地域で主に栽培されています。2022年のデータによると、日本国内で栽培される酒造好適米の中で、山田錦、五百万石に次いで3番目に多く生産されている主要な品種であり、多くの酒蔵で使用されています。

誕生の歴史

美山錦の誕生は、その母系品種である「たかね錦」の開発に遡ります。たかね錦は、1939年（昭和14年）に長野県農事試験場において、「北陸12号」と「東北25号」の交配によって誕生し、1952年（昭和27年）に品種登録されました。しかし、たかね錦は米粒が小さく、酒造りの際に重要な役割を果たす米の中心部のデンプン質である心白（しんぱく）の発現率が低いという課題を抱えていました。また、雑味の原因となりうるタンパク質の含有率が比較的高いことも、酒米としての改良点が求められる理由でした。

これらの欠点を克服し、より優れた酒米を育成するため、長野県農事試験場では改良に取り組みました。1972年（昭和47年）、たかね錦の種籾にガンマ線を照射し、遺伝子の突然変異を誘発させる処理が行われました。この処理によって生じた多数の変異体の中から、酒米として望ましい大粒で、かつ心白がよく現れる特性を持つ個体が選抜されました。厳密な選抜と育成を経て、酒造適性が高いと認められたこの新しい品種は、1978年（昭和53年）に「美山錦」と命名され、世に送り出されました。

品種の特性と栽培地域

「美山錦」という名称は、北アルプスなどの美しい山々に降り積もった雪のように、米粒の中心にある心白が白く鮮やかに輝く様子から名付けられたと伝えられています。この品種は、同じく主要な酒米である五百万石と同様に、生育期間が比較的短い早生（わせ）品種に分類されます。

栽培においては、特に冷涼な気候の地域に適しています。このため、発祥の地である長野県が最大の産地であり、現在でも県内の多くの地域で栽培されています。加えて、東北地方の各県、例えば秋田県、山形県、岩手県なども美山錦の主要な栽培地域となっており、その冷涼な気候が品種特性を活かすのに適しています。

日本酒としての特徴と影響

美山錦を用いて醸造された日本酒は、一般的に繊細で穏やかな香りを持ち、口に含むとすっきりとした軽快な味わいが特徴です。雑味が少なく、クリアでシャープな酒質に仕上がりやすい傾向があり、後味もスムーズです。この酒質は、様々なタイプの日本酒に適しており、特に淡麗な酒質を目指す酒蔵で好んで使用されています。

また、美山錦は単に優れた酒米として使われるだけでなく、新たな酒米品種を生み出すための親品種としても重要な役割を果たしています。例えば、山形県で育成され、現在では県の代表的な酒米の一つとなっている「出羽燦々（でわさんさん）」や、秋田県で開発された「秋の精（あきのせい）」などは、美山錦を親として誕生した品種です。このように、美山錦は今日の多様な酒米のラインナップにおいても、その系譜を通じて大きな影響を与え続けています。

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