美徳のよろめき

『美徳のよろめき』

『美徳のよろめき』は、三島由紀夫が1957年に発表した長編小説であり、人妻の姦通というテーマを取り扱っています。全20節から構成されており、読者に対して強い印象を残す作品です。この作品は、結婚生活の中で芳しい記憶と禁断の恋が交錯し、登場人物の内面の葛藤を巧みに描写しています。

物語は、28歳の節子が主人公です。彼女は裕福な家庭に生まれ育ち、親の意向に従って倉越一郎という男性と結婚します。その後、男の子も授かりますが、節子の心は過去の愛、土屋との再会に揺れ動きます。結婚前の思い出が蘇り、土屋との関係が再燃したことで、彼女は禁断の恋に足を踏み入れることになります。

土屋と節子は、何度か食事を共にし、次第に情熱的な関係に発展するのです。節子は土屋との再会を重ねる中で、感情や肉体的な快楽に飲み込まれていきます。しかし、土屋との関係は周囲に隠さなければならないものであり、彼女は密会を重ねる度に罪悪感と快楽の両方を抱えることになります。

節子はやがて妊娠しますが、その子は夫の子であるものの、自身の内なる葛藤から中絶を決意。旅行を計画し、友人の与志子協力のもと、さらに土屋との関係を深めていきます。この時、家族への愛と禁断の恋の間で揺れる節子は、苦しみを抱えつつも快楽に身を委ねる姿が描かれています。

物語は、節子の精神的・肉体的な苦痛を通して描かれ、数回の中絶を経て彼女は深い痛みと苦しみに悶える中で、ついには土屋に別れを切り出します。土屋は優しく彼女を受け入れるものの、別れの出来事は彼女に深い孤独感をもたらします。その後も、節子は土屋への愛慕の念を消せぬまま日常を送ります。

その一方で、作品においては三島由紀夫の独特な文体が光ります。彼はフランスの心理小説の影響を受け、ヒロインの背徳的な感情を巧妙に表現しています。そのため、文学史においてはこの作品が持つ意義は大きいと言えます。また、当時の日本において流行語にもなり、「よろめき夫人」や「よろめきドラマ」という言葉を生み出しました。

『美徳のよろめき』は、1957年に文芸雑誌『群像』で連載され、その後、単行本として発刊されました。瞬く間に30万部が売れ、ベストセラーとなります。この作品の影響力は、それにとどまらず映画化やテレビドラマ化もされ、多くのメディアで取り上げられました。映画版は同年に公開され、三島自身はその出来を厳しく批評しています。

評価については賛否が分かれました。女流作家たちから現実感の乏しさを批判された一方で、文学的技術の巧みさを称賛する声も存在します。三島の『美徳のよろめき』は、単なる姦通小説にとどまらず、深い内面の葛藤や人間の心理を描いた文学作品として、今なお読み継がれています。

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