美術モデル

美術モデル：芸術創造を支える存在

美術モデルとは、絵画、彫刻、版画、素描など、様々な美術作品制作において人体をモデルとして提供する職業です。デッサンモデル、クロッキーモデル、絵画モデルなど、作品の種類やポーズ時間によって分類されることもあります。

仕事内容と種類

美術モデルの仕事は、制作者の指示に基づき、静止したポーズを長時間維持することです。一般的な仕事の流れは、20分間のポーズと5～10分間の休憩を繰り返す形で行われ、1日に数時間勤務することが多いです。ポーズの種類は、「立ちポーズ」「座りポーズ」「寝ポーズ」といった基本的なものから、複雑で難易度の高いものまで多岐に渡ります。同じポーズを続ける「固定ポーズ」と、短い時間ごとにポーズを変える「クロッキー」があり、後者ではモチーフの形状を素早く捉えることが求められます。さらに、動きのポーズを続ける「ムービング」といったモデルもあります。

モデルには、ヌードモデルと着衣モデルがいます。ヌードモデルは衣服を着用せずにポーズをとるモデルであり、着衣モデルは衣服を着用した状態でポーズをとります。中には、両方を行うモデルもいます。

モデルに必要な能力と資質

美術モデルにとって最も重要な能力は、長時間、同じポーズを正確に維持できることです。制作者の要望に的確に応じ、柔軟なポージングができることも求められます。経験を積むことで、制作者が求めるポーズを理解し、自然なポーズをとれるようになります。中には、美術書などを参考にすることでポーズの技術を高めているモデルもいます。

美術モデルの歴史

美術モデルの歴史は古く、ルーブル美術館の記述によると紀元前から存在したとされています。西洋美術においては、16世紀以前は女性モデルの代わりに男性モデルが用いられることが多かったと言われています。ラファエロ・サンティが初めて、裸婦画に実在の女性モデルを起用したことで、その後の美術界に大きな影響を与えました。

日本では、江戸時代の浮世絵や春画にも裸婦像が見られます。明治時代には東京美術学校の開校を機に、西洋美術におけるヌードモデルの需要が高まり、宮崎菊氏が日本の最初のヌードモデルとして知られています。

モデルの雇用形態と報酬

美術モデルの雇用形態は、フリーランス、事務所所属、専属モデルなど様々です。報酬は、時間給制が一般的で、大都市部では1時間3,000円程度、地方都市では1時間2,500円程度が相場です。事務所所属の場合には、事務所の規定に基づいた報酬となります。

モデルの需要と種類

美術モデルの需要は、美術大学や絵画教室だけでなく、デザイン系、マンガ系、ファッション系など多様な分野に広がっています。ヌードモデルだけでなく、民族衣装や舞踊衣装、制服、ドレスなど様々な衣装を着た着衣モデルも需要があります。女性モデルの需要が男性モデルよりも圧倒的に高く、中には女性モデルしか雇用しない学校もあります。

著名な美術モデル

モンパルナスのキキ、オードリー・マンソン、アリス・プラン、オリーヴ・トーマスなど、多くの著名な美術モデルがいます。彼らは、美術史に名を残す数々の作品制作に貢献しました。他にも、ジョアンナ・ヒファーナン、ヴィクトリーヌ・ムーラン、カミーユ・クローデル、イヴリン・ネズビット、ジャンヌ・エビュテルヌ、淡谷のり子、佐々木カネヨなど、多くのモデルがそれぞれの時代を彩りました。

ルールとエチケット

美術モデルの仕事においては、モデルへの配慮が非常に重要です。裸婦モデルの場合は、ポーズ中は室内へ入らないこと、モデルへのプライベートな質問をしないことなどが暗黙の了解となっています。

参考文献

若林利重、藤田恒夫『裸婦ポーズ集―Let’sダ・ヴィンチ』
浅尾丁策『金四郎三代記―谷中人物叢話』『昭和の若き芸術家たち―続金四郎三代記［戦後篇］』
小林範子『ある美術モデルの肖像』
長島はちまき『美術モデルのころ』
Lipton, Eunice (1992) Alias Olympia: a woman's search for Manet's notorious model & her own desire.
Steiner, Wendy (2010) The Real Thing: the Model in the Mirror of Art
Waller, Susan (2006) The Invention of the Model: Artists and Models in Paris, 1830–1870*

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