美貌の果実

『美貌の果実』（びぼうのかじつ）は、川原泉による漫画作品で、白泉社の「花とゆめ」にて連載されていました。作品のサブタイトルは「10月はゆがんでる」です。この作品の背景には、バブル景気の時代が広がっており、深く考えないが真摯に生きる人々が、日々の中でなんとなく幸せを感じる様子が描かれています。

『美貌の果実』は作品自体が短編集としても楽しめるようになっており、いくつものエピソードが収められています。この物語は、農業、特にワインの生産をテーマにしていますが、物語の発展を考慮し、稲作ではなくワインに焦点を当てることにした経緯があるようです。作者の川原は、ワイン作りの実態を探るために勝沼のワイナリーを訪れ、この地域特有の風土や文化を作品に反映させました。

物語は、甲州にある小さな独立ワイナリーを営む秋月家の母娘を描いてスタートします。家業を支える父と兄を交通事故で失った二人は、突然注文が殺到したことで疲弊していきます。そんな中、民を見守る霊である行基の存在が物語のキーポイントとなり、彼の力が秋月家に生命の恩返しをもたらすことになります。

物語は、商談のために秋月ワイナリーを訪れる「リーベル社」の社長、都築貴英の登場によって新たな展開を迎えます。彼は、娘の七実が秋月家の菜苗と仲良くなることで、商談を忘れ彼女たちと共にワイン作りに励むことになります。収穫の季節になると、ライバルの酒販メーカーが登場し、複雑な人間関係が形成されていきます。特に、貴英の元妻が訪れたことで、彼の心に過去の傷が蘇ります。

七実は家出し、崖から落ちそうになったところを守られ、その際に精が残した葡萄の種を手に持つことに。行基は、自らの使命を全うした精霊の純真さに涙を流します。物語は、葡萄の精との物語、そして秋月家の運命が巧みに絡み合い、キャラクターたちが成長していく過程を描くものとなっています。

登場人物の中には、秋月菜苗、都築貴英、都築七実、行基、葡萄の精などがいます。菜苗は父と兄を失った後、家族を支える苦労人として描かれています。貴英は意外にも酒に弱い性格を持ち、七実は母のような存在で菜苗に親しみを持っています。

このように、『美貌の果実』はただの恋愛や冒険の物語ではなく、人災や家族の絆といったテーマをも織り交ぜながら、登場人物たちの成長と、ワイン作りを通じた人間の営みを豊かに描写しています。作品の中で秋月家のワイナリーは、ただの舞台にとどまらず、人物たちの思いや歴史が交差する場所となっている点も魅力の一つです。

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