耳管開放症

耳管開放症（じかんかいほうしょう）

疾患の概要

耳管開放症とは、普段は閉じているべき耳管が必要以上に開いたままになることで様々な耳の不快な症状が現れる病気です。代表的なものに、耳が詰まったように感じる「耳閉感」や、自分の声が異常に大きく響いて聞こえる「自声強聴」などがあります。耳管は、鼻の奥（鼻咽腔）と鼓膜の内側にある中耳腔をつなぐ細い管です。この管の主な役割は、中耳腔の気圧を外部の大気圧と等しく保つこと（換気機能）や、中耳にたまった分泌物を鼻咽腔へ排出すること（排泄機能）です。通常、耳管は閉じられていますが、つばを飲み込む（嚥下運動）などの動作によって一時的に開き、圧調整が行われます。耳管開放症は、この耳管が閉じずに開いた状態が持続または頻繁に起こることによって発症します。この病気は比較的古くから知られており、1867年にジャーゴによって初めて報告されました。

頻度

耳管開放症の正確な有病率は研究によってばらつきがあり、過去の報告では0.3%から7%程度とされています。近年の日本での調査では、約1%という報告も見られます。しかし、軽症例や診断に至っていないケースも含まれるため、実際の患者数はさらに多い可能性も指摘されています。

原因

耳管開放症の正確な発症メカニズムは未だ完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が症状を誘発したり、関連したりすることが分かっています。主な誘因としては、体重の急激な減少（過度なダイエット）、妊娠や経口避妊薬の使用によるホルモンバランスの変化、過去や現在の中耳炎、激しい運動、頭頸部への放射線治療、顎関節の異常、首の自律神経の乱れ、吹奏楽器の演奏などが挙げられます。また、特定の基礎疾患が関連している場合もあり、高度な体重減少、関節リウマチ、多発性硬化症、パーキンソン病、ポリオ、性ホルモン剤の長期使用、放射線照射などが関与する可能性が示唆されています。一方で、これらの明らかな誘因や基礎疾患がないにもかかわらず、耳管開放症と診断されるケースも少なくありません。鼻をすする癖がある人に見られる「鼻すすり型耳管開放症」では、耳管が通常より軟らかくなっていることが観察される場合もあります。

症状

耳管開放症の最も典型的でよくみられる症状は、耳が塞がったように感じる「耳閉感」と、自分の声や呼吸音が耳の中で異常に大きく響いて聞こえる「自声強聴」です。特に自声強聴では、自分の呼吸音がまるで換気扇の音のように聞こえたり、頭の中に響いたりすることがあります。これらの典型的な症状に加え、一部の患者さんでは、低音域の聞こえが悪くなる難聴、体がふわふわするような非回転性のめまい、耳の痛み、あるいは音楽の音程がずれて聞こえるといった症状を訴えることもあります。症状は、おじぎをするように前屈したり、仰向けに寝たりする体位をとると一時的に軽くなったり、消失したりすることがあるという特徴があります。症状が半年以上続き、一般的な保存的な治療に効果が見られない場合は「難治性難病」として扱われることがありますが、国の指定する難病の対象ではありません。

検査と診断

耳管開放症の診断は、患者さんの訴え（問診）といくつかの検査を組み合わせて行われます。耳鏡（オトスコープ）を使って鼓膜の状態を観察する際に、患者さんに声を出してもらったり呼吸をしてもらったりすることで、鼓膜の動きや異常な音の伝わりを確認することがあります。また、顕微鏡を使って呼吸に合わせた鼓膜の微細な動き（呼吸性動揺）を観察することも重要な診断手がかりとなります。聴力検査に加えて、インピーダンスオージオメータという装置で鼓膜の動きやすさ（アドミタンス）を測定する際に、呼吸による変化を確認したり、専用の耳管機能検査装置を用いて耳管の開閉状態を詳しく調べたりすることで診断を確定します。

治療法

耳管開放症の治療法は多岐にわたりますが、まずは手術を伴わない保存的な治療が試みられるのが一般的です。保存療法としては、体質改善を目的とした漢方薬（加味帰脾湯や補中益気湯など）の内服や、鼻から生理食塩水を点鼻して耳管周囲の粘膜を一時的に腫れさせる方法があります。耳管の鼻咽腔側の開口部に直接薬剤（ルゴール、プロタルゴールなど）を噴霧したり注入したりする方法や、さらに進んでコラーゲンや脂肪組織などを粘膜の下に注入して物理的に耳管の開きを抑える方法もあります。また、鼓膜に小さなパッチを貼って中耳内の圧変動を抑える治療や、首を軽く圧迫するようなスカーフ療法が有効な場合もあります。これらの保存療法で十分な効果が得られない場合や症状が重い場合には、手術療法が検討されることがあります。手術には、鼓膜に小さなチューブを留置して中耳内の換気を助ける方法や、耳管の内腔に軟骨、専用のピン、カテーテル、あるいは軟組織などを挿入・充填して耳管の開きを制限する方法があります。近年では、人工的に作られた耳管のようなものを挿入する試みも行われています。

診療科

耳管開放症は、耳、鼻、喉の病気を専門とする耳鼻咽喉科で診療が行われます。症状がある場合は、まずは耳鼻咽喉科医に相談することが推奨されます。

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