聖なるイチジクの種

映画『聖なるイチジクの種』解説

『聖なるイチジクの種』（原題: دانه‌ی انجیر معابد、英題: The Seed of the Sacred Fig）は、2024年に公開されたモハマド・ラスロフ監督によるドラマ映画です。2022年のマフサ・アミニの死をきっかけとしたイランの抗議運動を背景に、ある家族が1丁の銃を巡って崩壊していく姿を描いています。

概要

本作は、第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、上映後には約12分間のスタンディングオベーションが送られました。また、同映画祭で審査員特別賞を受賞しています。

監督のモハマド・ラスロフは、本作の撮影後、国家安全保障に反する罪で懲役8年、むち打ち、財産没収の実刑判決を受けましたが、執行前に国外へ脱出しドイツへ亡命しました。

2024年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で外国語映画賞を受賞、第50回ロサンゼルス映画批評家協会賞ではラスロフが監督賞を受賞。第97回アカデミー賞ではドイツ代表作品として国際長編映画賞にノミネートされています。

ストーリー

マフサ・アミニの死をきっかけに、イラン全土で抗議運動が激化。政府は武力でデモ参加者を弾圧していました。

20年の勤続を経て予審判事に昇進したイマンは、仕事の危険性から護身用の拳銃を支給されます。彼は職務に疑問を抱きながらも、反体制派のデモ参加者に不当な刑罰を下す仕事に従事していました。

イマンの妻ナジメは、疲れて帰宅する夫を支え、2人の娘たちにも国家公務員である父親の仕事を理解するよう促します。しかし、娘のレズワンとサナは、外で起きている不正義に疑問を抱き、SNSを通じて真相を追求していました。

そんなある日、イマンの拳銃が消えてしまいます。当初はイマンの不注意が原因と思われましたが、彼の疑念は次第に家族へと向けられていきます。拳銃の紛失が発覚すれば、イマンは信用を失い、解雇や服役の可能性すらあります。彼は必死に拳銃を探し、家族への疑念は暴走していくのでした。

製作

映画は2023年12月から2024年3月にかけて秘密裏に撮影されました。ラスロフ監督は過去に逮捕・投獄された経験があり、警察の介入を避けるため、多くのシーンを監督不在の状態で撮影し、オンラインで指示を出しました。

撮影中には、ラスロフ監督に再度の実刑判決が下るという情報が入りました。監督はノウルーズ休暇を利用して撮影を終え、判決確定と同時に2時間で国外へ脱出、徒歩でイラン国境を越えました。

撮影された映像は、ハンブルクに密かに持ち出され、アンドリュー・バードによって編集。完成版には、実際の抗議デモや警察による暴行の映像も加えられています。

キャスト

イマン：ミシャク・ザラ
ナジメ：ソヘイラ・ゴレスターニ
レズワン：マフサ・ロスタミ
サナ：セターレ・マレキ
* サダフ：ニウシャ・アフシ

『聖なるイチジクの種』は、社会の不条理と家族の崩壊を描いた、衝撃的な作品です。

もう一度検索