聖アンナと聖母子 (デューラー)

聖アンナと聖母子

アルブレヒト・デューラーが描いた油彩画『聖アンナと聖母子』（独: Anna selbdritt、英: Madonna and Child with Saint Anne）は、ルネサンス期のドイツを代表する巨匠による傑作です。もともとは板に描かれていましたが、後にキャンバスへ移し替えられました。制作年と署名は後から加えられたものですが、「1519」という年号はほぼ確実とされています。

この作品には、聖母マリア、幼子イエス・キリスト、そしてマリアの母である聖アンナが描かれています。聖アンナは、ドイツにおいて特に崇拝されていた存在です。この絵画は、かつてベンジャミン・アルトマンのコレクションにありましたが、1913年に他の多くの美術品と共にニューヨークのメトロポリタン美術館に寄贈されました。

背景

デューラーの宗教画において、聖母、特に聖母子は頻繁に描かれた主題です。これは、中世以降強まってきた聖母信仰と、デューラー個人の聖母への深い傾倒が背景にあると考えられます。デューラーが描いた聖母子の油彩画は、祭壇画を除くと比較的小型のものが約15点現存しており、そのうち10点はマリアと幼子イエスのみを描いた聖母子画です。版画では約25作品、素描では約70作品もの聖母子画が知られています。これらの作品は、デューラーの全生涯にわたって制作されていますが、油彩、版画、素描ともに1510年代に集中しています。版画の最後の作例は1520年、油彩画は1520年代に1点のみが確認されており、これは宗教改革の影響によるものと考えられています。

作品解説

本作では、聖アンナがマリアを慰めるように肩に手を置いており、遠くを見つめるような眼差しをしています。この視線は、孫であるイエス・キリストの将来に待ち受ける「受難」の運命を予見しているかのようです。1516年の『カーネーションの聖母』や1518年の『祈る聖母』など、この時期のデューラーの聖母は大きく見開かれた目が特徴的ですが、本作における聖アンナの異様な光を放つ目は、作品に特異な印象を与えています。

この印象は、沈んだ色調や硬いモデリングとともに、近づきがたい雰囲気を生み出し、長らくこの作品の評価を低くしてきた要因の一つでした。しかし、近年では本作を重要視する研究者も現れています。

聖アンナは、デューラーの妻アグネスをモデルにしており、そのための習作も残されています。

関連作品

デューラーは、生涯にわたり多数の聖母子像を描いており、それぞれの作品が独特な表現を持っています。

出典

メトロポリタン美術館の本作のサイト (英語))

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